徒花無双 番外編

月岡雨音

ある年末のbarアネモネ

※本作は朗読casで読まれる(かもしれない)ことを想定して書いているので、セリフ前に人物名を記載しております。

 簡単なキャラ紹介もご用意しましたので、併せて御覧ください。



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レイ 「じゃあねぇ、よいお年を~」

リリ 「おやすみなさぁい!」

テディ「来年もよろしくねぇ~ん」


 今年最後のお客様をタクシーに乗せ、お見送りを終えて店内に戻る。

 お店の中は年末イベントのためにクリスマスから飾りっぱなしのきらびやかな電飾や派手なモール、果てはクラッカーの残骸なんかで埋め尽くされていた。


テディ「イベント後はこれが嫌なのよねぇ~」

ゲリー「誰よこんなにしたのぉ」

リリ 「えぇ~もぉ疲れたしぃ~明日にしようよママぁ」

レイ 「バカ言ってんじゃないわよ。ほらさっさと片付ける!」

ジュリ「あったしは、アフターあるからお・さ・きっ」

ゲリー「あ~ジュリちゃんズル~い!」

リリ 「じゃあリリちゃんもお・さ・き☆」

テディ「おまえアフター入ってねぇだろ」

リリ 「バラすんじゃねぇよクマ!」


 ガヤガヤと賑やかにしながら、店内BGMのチャンネルをジャズからJ-POPに切り替えて、飾り付けを片っ端から片付けていく。

 今夜で今年最後の営業が終わって、明日からは数日お正月休み。だから今夜のうちに全部片付けは終わらせて、正月飾りまでやっつけておきたいのよね。


ゲリー「ねぇリリさん、これどこ仕舞うんだっけ?」

レイ 「こっちのはもう捨てちゃっていいのー?」

ユッキー 「電飾とかは二階。ゴミは俺行ってきますよレイさん」

リリ 「さっすがユッキー!」

レイ 「ありがとね」


 フロアに散らばるクラッカーの紙片を掃き集めたり、壁のモールを剥がしたり。

 全員でばーっとやっちゃえばあっという間よ。

 時々有線でかかる曲を口ずさみながら、一時間ほどで店内はすっかりお正月バージョンに姿を変えていた。


ゲリー「あぁ~やっと終わったぁ!」

リリ 「帰ろ帰ろもー」

テディ「メシ行く~?」

ユッキー 「俺パスで」

リリ 「行くー。腹へったぁ」

ゲリー「どこ行くぅ?」


 営業モードから抜けた徒花ちゃん達が和気藹々する中、あたしは用意してあった物を取り出して、その輪の中へ入っていく。


レイ 「みんなイベントお疲れさま! ありがとね、おかげで今年も大盛況だったわ」

リリ 「イエーイ!」

テディ「楽しかったねぇ」


 着替えを済ませ、あとは帰るばかりのみんなを並ばせて、はい、とその手にひとつずつ、小さなポチ袋を乗せていく。

 いつも一緒に頑張ってくれる徒花ちゃん達への、愛のお返し。


レイ 「はいクマ子。いつも助かってるわ、ありがとう」

テディ「だ・か・ら! あたしはテディちゃんよ! 今年もありがとうママ」

レイ 「ふふ。次はリリ。あんた次当日欠勤したらペナつけるからね」

リリ 「ごめんなさぁい」

レイ 「ん、次はゲリー」

ゲリー「マルゲリータ!!」

レイ 「はいはい。あんたは逆ね。もう少し出勤減らしてもいいのよ?」

ゲリー「だいじょーぶ! まだなんとかなります!」

レイ 「でも院に進むんでしょ? 無理しちゃダメよ?」

ゲリー「はぁい! ありがとうママ」

レイ 「何かあったらちゃんと相談するのよ?」


 ひとりひとり、名前を呼んで顔を見て一言ずつ、なんて偉そうな感じだけれど、もう毎年の恒例行事なのよね。

 一年間お疲れ様とありがとうの気持ちを込めて、あたしからのささやかなプレゼント。


レイ 「最後はユッキーね、いつも色々やってくれて本当助かってるわ、ありがとう」

ユッキー 「いやぁ、姐さん達にもらった恩に比べたら全然すよ」

レイ 「もう、またそんなこと言ってぇ」

リリ 「その恩はカラダで返してるくせにぃ~」

テディ「ジュリのアフター付いてかなくてよかったのぉ?」

ユッキー 「う、うるせぇな!」


 ま、そんな店内恋愛事情はさておいて。


レイ 「今年も一年ありがとうみんな。来年もよろしくね」

テディ「もっちろんよママ!」

ゲリー「ありがとうレイママぁ」

リリ 「ママだぁい好き! やったぁ何買おう」

ユッキー 「ジュリさんの分は? なんなら預かりますよ」

リリ 「自分の懐に入れる気じゃねぇの」

ユッキー 「しねぇわそんなこと!」

レイ 「ジュリにはもう渡してあるわよ」


 そう、これはちょっと気の早いお年玉を兼ねた、冬のボーナス。ていうか寸志? そんなに大きな額は渡してあげられないけれど、やっぱりあるとないとじゃ気持ちも違うものね。

 こうして喜んでくれる顔を見ると、また次も渡してあげられるように頑張ろうって気持ちになるのよね。


リリ 「じゃあねママ、良いお年を!」

テディ「お疲れさまー! 来年もよろしくねぇ」

ユッキー 「お先でーす」

レイ 「んふ、来年もよろしくね」

ゲリー「はぁーい」


 ドヤドヤと出ていくみんなを見送って、お店の鍵を閉める。さて、あたしも帰ろっと。

 バックヤード奥の階段で三階に上がったところに、あたしの部屋があるの。


「ただいまぁ~」


 なぁんて言っても、当然返ってくる声はない。

 猫でも飼おうかなんて思ったこともあるけれど、ドレスに毛が付いちゃうのよねぇ。

 それに太客ふときゃくで猫アレルギーのお客さんがいたこともあって、結局諦めちゃった。


「あーあ、あげるばっかりで、あたしのとこには今年もサンタだって来なかったしねぇ」


 仕方のないことだけど。パートナーも今はいないし、お店のことや例の件でいっぱいいっぱい。

 でもいいの。なんと言っても今年は鍛冶神様と出会えたんですもの……!

 右手の指輪をそっと撫でる。年末年始のお休みで、またあちらに行く予定なのよ。


「んふ。明日になったらまたお会いできるんだもの。今度はどんな所に行くのかしら……」


 ふあぁ、と大きなあくびがひとつ。

 疲れたけれど、明日に備えてちゃんとシャワーを浴びて、ぴっかぴかのあたしで会いに行かなくちゃ!


「待っててね、鍛冶神様ぁ~」


 うっきうきでシャワールームへ向かったあたしは、明日ショタ神様の所から直接アトミスへと飛ばされて、鍛冶神様にお会いできないまま年を越すはめになるなんてことは、知る由もなかった。


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