第22話
アラームで目覚めると、由香里に言った。
「もう一応仕事も辞めたんだし、アラームの時間を変えないか?」
「規則正しい生活リズムは大切だわ、でも少し早いわね少しずらしましょうか」
由香里はアラームを一時間だけ遅らせた。
「これでいいかしら?」
「ああ、それでいい」
キッチンのテーブルに付いて豆乳を飲みながら朝食を待った。
出てきたのはスタミナ丼だった。
「朝からこれか? 美味いからいいが」
「昨夜久しぶりに抱いてくれたでしょ、疲れたんじゃないかと思って作ったの」
「気が効くな、遠慮なく戴こう」
スタミナ丼と豚の生姜焼きをペロリと平らげた。
「朝からこれもいいな、一日の活力の源になりそうだ」
「作るのが簡単だから助かるわ」
豆乳を持ってリビングに行き新聞を広げるが大した記事は載っていない、週間天気予報だけチェックしすぐに新聞を畳む。
「銀行三つとも回るから早めに用意しておいて」
すぐに着替え俺も通帳と印鑑を用意した。
「俺は何時でも大丈夫だ」
「私も用意出来たわ、出ましょうか?」
「混んで待たされるのは嫌だからな」
すぐに車に乗り込み遠い方から周る事にした。遠いと言っても大した距離ではない、すぐに到着する、機械の番号札を取ると長椅子に腰を掛けたがすぐに呼ばれた由香里が用件を伝える、しばらくお待ち下さいと言われたのでまた座った。中年の男性が出てきて。
「荒木様、こちらへどうぞ」
と言われるがまま付いて行った、ソファーに座ると男が名刺を出してくる、支店長と書いてあった。
「荒木様は個人では当支店一番のお客様です、今日の用件は私が行います、通帳と印鑑をお借り出来ますか」
二人の通帳と印鑑を出した。
「少々お待ち下さい」
男が奥に消えた。
「こんなとこに呼ばれたのは初めてだ」
「貯金の残高が多いとこういう風な扱いを受けるわ、私は慣れたわ」
すぐに男が戻ってきて通帳と印鑑を返される。
「これでよろしいですか?」
由香里の通帳には変更済みと判が押されている、俺の通帳には由香里の貯金が移されていた。由香里がこれでいいわと言うと、新しいキャッシュカードが由香里に手渡される。
「ありがとう、今日はこれだけよ」
と立ち上がる、俺も立ち上がった。
「荒木様のお顔は覚えました、これからもよろしくお願いします」
と出口まで見送られた。
「∨IP対応だったな」
「あれだけの金額ですもの当然よ」
次の銀行に向かった。
結局残り二軒も同じ感じの対応で思ってたよりもあっさりと終わった。
一旦マンションに帰ると由香里は古い方の通帳とキャッシュカードにハサミを入れ捨てていた。
まだ昼前だったがショッピングモールへ向かった、駐車場に車を停め中に入る。
「お腹が空いたわ、飲食店も多いし何か食べない?」
「何が食いたい? お前の好きなとこで構わないぞ」
「私、ラーメンが食べたいわ今までほとんど食べたことがないの」
と言うので大手のチェーン店へ入った。
俺が豚骨チャーシュー麺を頼むと由香里も同じものを注文した。すぐに運ばれて来る。
俺はにんにくを潰し混ぜて食べた、由香里も真似をしている、食べ始めると。
「なにこれ、凄く美味しいわ」
と言い夢中で食べ始めた。すぐに食べ終え店を出る。
「ラーメンって美味しいのね、しかも安い」
「気に入ったか? だが店によって当たり外れが激しい」
「うちの近所にもあるかしら?」
「たくさん並んでたぞ、また食いに行こう」
「ええ、連れて行って。口直しがしたいわ」
と言い出したのでクレープ屋に寄った。
「ここのクレープも美味しいわね」
由香里はさっきから上機嫌だ。
「で何を買うの?」
「決めてないが時間はある、ゆっくり周ろうじゃないか」
いろんな店を見て回り、俺は一軒の時計屋に入った、腕時計を見て回る気に入ったのを何個か見つけると店員を呼び防水で頑丈なのを聞いた、二つに絞られた。
「お前ならどっちを選ぶ?」
「違いがよくわからないけどこっちの方が好みね」
由香里に聞こえない様に、店員に男女ペアでこれを買うと伝えた。一応ブランド品らしい。
高かったが会計をし、店を出た。
「俺の用事は終わった、まだ見て周るか?」
「半日で全部周るのは無理よ広すぎるわ、また今度にしましょ。楽しかったわ」
駐車場まで戻りマンションに帰った。
飲み物が出されたので飲みながら、さっき買った腕時計を取り出しはめてみた。
「似合ってるわ、いいデザインね」
もう一つ取り出し由香里に渡してやった。
「私の分も買ってくれたの?」
箱を開け腕にはめた。
「これは女性用ね、ペアの腕時計ね」
「結婚指輪の代わりだ、代わりを用意するって約束しただろ? 気に入ってくれたか?」
「ええ、気に入ったわ、ありがとう大事にするわ」
「防水で衝撃にも強いらしい、電波時計だから時間を合わせる必要もないぞ」
「嬉しいわ、お出掛けする時に使うわ」
こんなので良かったのだろうかと暫く考えた、由香里は貴金属に興味はないと言っていたがこれも貴金属に入るんじゃないか? しかし俺には他に思いつかなかった。
「あなた、浮かない顔をしてどうしたの?」
「いや、本当にこんな物で良かったのかを考えていた。よく考えればこれも貴金属の類だし、他の物にした方が良かったんじゃないだろうかとな」
「大丈夫よ、私はこれが気に入ったし嬉しかったわ、貴金属になるけど腕時計は別よ、それにあなたからのプレゼントよ嬉しくないはずがないじゃない、結婚指輪は要らないって言ったのは私よ、落ち込む必要はないわ」
「そうか、わかった」
由香里は大事そうに腕時計を置いた。
「わかってくれたのならいいわ」
由香里はコーヒーを一口飲むと。
「今夜はハニーズの記念日のセットを再現しようと思うの、近所にいいお肉屋さんがあるから見に行きましょ」
肉屋と言えば商店街の小さな肉屋しか思いつかなかった。
「ああ、行ってみよう」
歩いて数分のところに肉専門店と書かれた大きな肉屋があった。
「でかいな」
「私のお気に入りのお肉屋さんよ」
中へ入ると小太りの男がいる。
「いらっしゃい、おや姫野さんじゃないか」
「昨日から姫野じゃなく荒木よ」
「おめでたいね、あんたが旦那さんかい?」
「そうだ、ところで俺はこんな大きな肉屋は初めてだかなり揃えてあるのかい?」
「牛、豚、鳥の肉ならここで手に入らない肉はないはずだ、それに超新鮮な肉ばかりだ、結婚記念に安くしとくよ」
ガラスケースに並べられた肉を端から見ていく牛肉だけでもピンからキリまで揃っている様だ、ブランド品も並んでいる。
「お前肉はいつもここで買ってるのか?」
「そうよ、スーパーのお肉は薄いもの」
高級肉のところで品定めに入った。
霜降り国産和牛だ
「これかこっちかどっちが美味いんだ?」
「いい肉に目を付けたね、こいつは神戸牛と宮崎県産の肉だ近所のレストラン御用達の肉だ、数が少ないから早い者勝ちだよ」
「ハニーズを知ってるかい? あそこの肉の味が忘れられなくてね」
「ハニーズさんに卸してる肉はこっちだ」
「じゃあそれを二人前、分厚く切ってくれ」
「それといつもの豚肉も四枚戴くわ」
「ありがとう、用意するから待ってくれ」
「ここは店の奥でさばいてるらしいわよ」
「それでこんなに広いのか」
「お待たせ、サービスしといたよ」
「俺が払うよ、カードでもいいのかい」
「構わないよ、気に入ったらまた来てくれ」
店を出た、肉がずっしりとしていて重い。
「ハニーズと同じお肉が買えたわね」
「これは楽しみだ」
家に帰ると由香里は張り切っている。
「早速再現してみるわ」
とキッチンへ入っていった。
俺は腕時計を外し、冷蔵庫の豆乳をコップに注ぐ。ガーリックライスの美味しそうな匂いがしている。リビングに戻って待っていると、ステーキを焼く音が聞こえてくる。そろそろだなと思いテーブルに付いた。
食べ物が運ばれて来る、レストランの様に特製タレもついてきた。
「出来たわ、ステーキから食べて頂戴」
特製タレを両方に混ぜ、食べ始めた。
「これは美味い、レストランより美味いんじゃないか? 肉が口の中で溶けていく」
「本当に美味しいわね食べ切れるかしら?」
ガーリックライスも食べる、こちらも店と同じ味がしている。
味わってゆっくり食べた筈だが、すぐに食べ終えた。
「どうだった?」
「レストランで食べるより美味かったよ、大満足だ腹が満たされたよ」
「よかったわ、レストランで食べるより安上がりだしまた買っておくわ」
「頼むよ、ごちそうさま」
急に眠気が襲ってきたので、ソファーに横になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます