爽やかな笑顔

 王子の奴、いきなりなにを言い出すのよ?

 しかし王子の顔はシリアスだった。

 そしてシリアスな表情のまま、大魔王の所へ行き、その手を取ると、跪く。

「大魔王。永遠の愛を貴方に捧げる」

 ……マジ?

 大魔王は何を言われたのか理解できなかったように、キョトンと呆けた表情。

 しかし、やがて理解し始めたのか、その瞳は喜びに輝き、そして感動の涙を流し始めた。

「わ、私に愛を捧げる者が、現れた……この私にも、愛してくれる者が……

 うううぅぅ……」

 えっと?

 で、こっから どうなるの?

 大魔王は言った。

「私は世界制服を止める。私はただ愛が欲しかっただけなのだ。ただ一人で良い。私を愛してくれる者が一人でもいてくれれば良かったのだ。ただそれだけで。

 そして、その者は現れた。

 もう、なにも望まぬ」



「戦いは終わりだ」



 こうして 長い戦いの冒険は終わった。

 こんなんでよかったの?




 そして、わたしたちは和平を結ぶことになったのだが、大魔宮殿を後にするときに、王子に こっそり一応 聞いておいた。

「あの、本当に大魔王と愛し合うつもりなんですか?」

 王子は爽やかな笑顔で答えた。

「もちろんだよ。あんな、究極的なまでに気持ち悪い男に これから一生 汚されるのかと思うと、ボクは不自然なまでに興奮してしまって。ハアハアハア。あ、どうしよう、もうあそこがオッキしてしまった」

 レベルの高すぎるBLに目覚めてしまっていた。

 ハハハ……



 そして わたしたちは大魔宮殿をあとにした。

 その時だった。

「貴方たちを帰すわけには行きません」

 執事が現れた。

 精霊将軍が厳しい顔で、

「貴様、私が首を刎ねたはず」

「その程度で死んだりしませんよ」

 わたしは執事に質問する。

「貴方の目的はなんなのですか?」

「そうですね。大魔王に勝利した貴方たちに敬意を表して、私の真の目的を教えてあげましょう。

 私の目的。

 それは地上に地獄をもたらすこと」

「地上に地獄」

「そう、地獄です。一口に地獄と行っても様々な地獄があります。私のもたらす地獄は精神的な物。

 それは、地上を偽りの愛で満たすこと。

 望まぬ愛を強要される。

 強要された愛に生きていかなければならない。

 一生涯。

 これぞ、地上の地獄ではありませんか。

 そのために、大魔王に変身薬などの知識と、その力を与えました。

 しかし、それも貴方たちによって失敗しました。

 まったく、あともう少しだったというのに。

 特に、あのメタボの魔術師。臆病者が一番恐ろしい。ああいうことをしでかすから、真っ先に潰しておきたかった。

 まあ、今さら行っても詮無きことですが。

 今回は地獄をもたらすことに失敗しました。

 だから、聖女さま。貴方たちを始末して、もう一度やり直すことにします」

 そして執事は懐からあるものを取り出した。

 核だった。

「それをどうするつもりですか!?」

「こうします」

 執事は核を口から飲む込んだ。

 そして執事の体が見る見るうちに化け物へと変化していく。

 それと共に大魔王を上回る力を感じるのだった。

「私の秘めたる力を核爆弾によって覚醒させました。貴方たちに勝ち目はない」



 わたしは手を上げて聞いた。

「あの、今 秘めた力って言いました?」

「それがなにか?」

 わたしは聖女の杖を執事に向けると、聖女の力を全力で執事に使った。



「グワアアァアアア!!」



 執事の秘められた力が聖女の力によって暴走し、悪魔は自滅した。



「……勝った」

 虚しい勝利だった。



 次回・エピローグ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る