魔物が手に入れば

 オッサンが大ピンチの その時、無数のエネルギーボルトが魔王と妖術将軍に向かって放たれた。

「ヌウ!」

 魔王はそのエネルギーボルトを衝撃波で迎撃し、妖術将軍は、

「アバババババ!」

 まともに受けていた。

 魔王は エネルギーボルトが放たれた方向へ視線を向け 誰何する。

「何者だ!?」

 そこにいたのは、すり切れたローブを羽織ったおじいちゃんだった。

 オッサンは死にかけた状態で、

「し、師匠」

 そう、オッサンの師匠であり、童貞オタク兄貴と一時期 旅を共にし、現在は賢者の国で隠居生活しているはずの、大魔道士さまだった。

 大魔道士さまは あきれた様子で オッサンに、

「こんな罠に引っかかるとは。相変わらず おぬしダメすぎるな」

「ひどいです、師匠。僕、死にかけてますです」

「分かっておる。ほれ、解毒魔法」

 大魔道士さまが魔法をかけると、妖術将軍の毒が解毒された。

「た、助かったです」

 大魔道士さまはオッサンを治すと、次は魔王へ眼を向けた。



 魔王は自覚していなかったが、年老いた大魔道士に臆していた。

 魔王は嫌な脂汗を流しながら、

「貴様は勇者と一緒にいた魔法使い。大魔道士と呼ばれているそうだな」

 魔法に関しては人間界で随一と噂される男。

 かつて勇者と戦った時、なぜか肝心の決戦では参戦していなかったが、この男がいたら、大魔王様でも自分を復活させることは出来なかったかも知れない。

 大魔道士さまは飄々とした感じで、

「いやあ、あの時 参戦しておればお主が復活できぬように封印を施せたのじゃが、腰痛やらリュウマチやら水虫やら、いくつも病気が重なってしまい、脱落せざるを得なくなったわけじゃ」

 ホントにそんな理由なのかどうかは知らないけど、大魔道士さま続けて、

「しかし 魔王よ。おぬし、話に聞いていたほどではなさそうじゃのう。こんな老いぼれにビビるとは。よくもまあ、そんなんで魔王が務まるわい」

「なっ!? 俺が貴様に怯えているだと!?」

 指摘されて動揺する魔王。

「ほっほっほっ、図星といったところかな?」

 魔王は激高する。

「貴様ぁ! 黙っておれば 言いたい放題 言いおって!」

 魔王はいきなり奥の手を出した。

三魔大爪トリプル デビル クロー!」

 大魔道士さまは感心したように、

「ほう。魔王だけあって、力だけは中々のものじゃのう」

 その言葉に、魔王は激怒する。

「貴様! 俺が力だけだと言うのか!?」

 他はダメだという言い回しに気付いたのだ。

 大魔道士さまはからかうように、

「ほっほっほっ。ちょっと感に触ったかの?」

「この老いぼれが! 三魔聖剣トリプルデビルカリバー!」

 魔王はいきなり必殺技を繰り出したが、その攻撃が大魔道士さまの体をすり抜ける。

「ヌウッ!?」

 戸惑う魔王の背後から声。

「後ろじゃ」

 魔王が攻撃したのは、幻影だったのだ。

 そして魔王が動揺した隙に、大魔道士さまは、

「氷結魔法」

 小さな氷の魔法をかけた。

 足だけに。

「し、しまった!」

 魔王の両足が凍り付いて地面とくっついてしまい、身動きが取れなくなる。

 そこに大魔道士さまが、

「極大灼熱魔法」

 とてつもない威力の熱量の大魔法を放った。

「うあぁあああ!!」



 魔法の余韻が消えると、そこに魔王の姿はなかった。

 オッサンが、

「ど、どうなったですか?」

「どうやら 逃げられたようじゃ。魔法が命中する直前に、変なジジイが転移魔法を使ったようじゃな」

「ジジイは師匠もです」

「お主、相変わらずムカつくのう。師匠に敬意を払わんか」



 なんて戦いがあった頃、中隊長さんは試練を終えた。

 聖殿から出てきた中隊長さんは、明らかに疲労していたが、どこか凄みが感じられた。

 わたしは中隊長さんに、

「し、試練は どうでした?」

「恐ろしい試練だった。幾度もくじけそうになり、もう終わりだと思うこともあった。

 だが、君への愛で、乗り越えることが出来た。

 俺は試練に合格し、竜神から破邪の力を与えられた、真の竜戦士となった」

 中隊長さんの爽やかスマイルはいつもより素敵になっていた。

 中隊長さんのイケメンがレベルアップした。



 悪友がツッコミを入れる。

「レベルアップはそこじゃない」



 突然 オッサンがいるところから爆発音が聞こえた。

 中隊長さんが、

「今のはなんだ?!」

 わたしは、

「みなさん! 行きましょう!

 そしてオッサンのところへ行くと、そこには大魔道士さまと、戦いの痕跡。

「大魔道士さま。どうして貴方がここに?」

「賢姫さまに、勇者が心配だから 様子を見に行ってきてくれと頼まれてな。断ったら なにされるか分からんから来たのじゃが、正解じゃったようじゃな。

 魔王が襲撃しようとしとったぞ」

「魔王が!?」

 魔兵将くんとの戦いで生き延びてたなんて。

 そしてわたしはオッサンに聞く。 

「で、オッサンは なぜに毒で死にかけたんですか?」

「妖術将軍が姫騎士さまに化けていてですね、筆下ろししてくれると言ってきてですね」

「まさか、姫騎士さんが以前からオッサンに気があったとかっていう話をして、それを真に受けたんじゃないでしょうね。そんなわかりやすぎる罠に引っかかったんですか。

 っていうか あり得ないでしょう。オッサンを好きになるって そーとー特殊な趣味じゃないとダメですよ。世界中を探しても一人 見つかれば運が良いほうです。

 というわけで、今後は誰かに好きだと言われたら真っ先に疑ってください。良いですね」

「シクシク。酷い言われようです」



 ともあれ、中隊長さんは 聖女の力がなくても、竜戦士の力が使えるようになった。

 魔王も思ったよりショボいし、誰も死んでいない。

 そうよ、この小説のジャンルはラブコメに分類したんだから、そんな残酷な話になるわけないじゃない。

 オーホッホッホッ。

 わたしは安堵して、いつもより優しい気持ちになったので、晩ご飯を作ってあげた。

「魔物が手に入ればよかったんですけどね。普通の晩ご飯ですみません」

 中隊長さんがビクッとなって、

「い、いや、普通の食材で十分だ」

 どうして怖がったりしたんだろう?



 魔兵将軍親子は、中隊長さんの試練で採取した破邪の力を利用して、炉歩徒に組み込む 新しい武器の開発をしていた。

 相変わらずファザコン&親馬鹿のラブラブっぷりで。

「パパァ、僕の子供の顔、見たいよね?」

「ああ、もちろんおまえの子供の顔を見たいとも。私の孫なのだから」

「聖女さまの子供の顔も見たいと思わない」

「ふふふ、見たいとも」

「そうだよねー、パパ。実は 一度に全部 見られる方法があるんだよ」

「もちろん 気付いているとも、愛しい息子よ」

「えへへへ」

「ふふふ」

 なんか二人だけで通じる何かがあるらしく、わたしには意味が分からなかった。



 また、魔兵将軍親子に聖姫さまが聖女の力を分散して使用したことを話すと、新しい魔法道具を作ってくれた。

 そして渡してきたのは、なんかオモチャのピストルみたいな物だった。

 魔兵将くんは自嘲するように、

「ハハハ、デザインは気にしないでいただけますか。僕、そういうのは得意じゃなくて。

 とにかく、これに聖女の力を使ってみてください」

 言われたとおりに聖女の力をピストルに使ってみた。

 すると、ピストルの中に聖女の力が蓄積された状態になった。

 魔兵将くんは、

「蓄積された聖女の力を、小出しに発射する魔法道具です。一回の充封で六回に分散できます」

「つまり、この道具で聖姫さまがやったことと 同じことができるわけね」

「そのとおりです」

 聖姫さまは聖女の力を分散させて、兄貴と中隊長さんに使用した。

 そして、二人は力を覚醒させた状態で、さらにパワーアップした。

 それと同じことが、このピストルを使えば可能というわけだ。

 これで戦力が大きくアップする。

「ただし、多様は禁物ですよ」

「わかってるわ。使いすぎると、竜の力を暴走させられた中隊長さんみたいなことになるんでしょう」

「その通りです。気をつけてください」



 そして早速、中隊長さんと兄貴に、聖女のピストルを使いパワーアップさせた。

 中隊長さんは感激して、

「この力、あの時と同じだ」

 兄貴も感激して、

「聖姫さまと同じでござるな。これで魔王にも引けを取らないでござる」

 そして二人は、パワーアップした力を使いこなすために、トレーニングを始めたのだが、いきなり問題が発生した。

「剣が壊れた?」

 中隊長さんと兄貴の報告に、わたしは首を傾げる。

 中隊長さんは困ったように、

「そうなんだ。俺たちの力に武器が耐えられずに、些細なことで折れてしまうんだ」

 兄貴も戸惑っていて、

「力が大きくなりすぎた弊害でござる。武器が簡単に壊れてしまうようでは、いざというときに戦えぬでござるよ」

 トレーニングに付き合っていた精霊将軍も、

「力を二重に使ったこの者たちは、精霊と融合した私をも超えている。並の武器では耐えられん」

 思わぬ事態だった。

 わたしは思案して、

「剣を使わない最強の剣士を目指すというのはどうでしょう」

 精霊将軍があきれたように、

「なんだ その 小説とかみたいな話は。そんなもの現実性がないだろう」

 と、一蹴されてしまった。

 しょんぼり。

 精霊将軍は続けて、

「解決方法は単純だ。力に耐えられるほどの強い武器を使えば良いだけだ。

 かく言う私の剣も、精霊剣という伝説的な魔法剣だ。上位精霊の力に耐えられる武器なのだから、これくらい当然だ。

 二人も なにか そういう特別な武器が必要だろう」

 わたしはふと疑問に思う。

「兄貴の剣って 普通の剣だったの? ゲームとかじゃ魔王と戦うのに勇者の剣とか手に入れたりするじゃない」

「拙者のは、名高い鍛冶師に打って貰った、逆刃刀でござった」

 わたしは兄貴にボディブローを入れた。

「あんた 魔王と戦うのに不殺ころさずの剣を用意したって言うの!? 必殺技といい剣といい! マンガと現実の区別つけなさいよ!!」

 そこに魔兵将くんが わたしを落ち着かせようと、

「あの、聖女さま、落ち着いてください」

 そして改めて、

「問題が全部解決するわけではありませんが、一本だけならなんとかなるかもしれません。

 南の王国で武闘大会が開かれるってラジオでやってたんですが、その優勝賞品がドラゴンスレイヤーなんです」

 ドラゴンスレイヤーって、ファンタジーゲームとかで必ずと言って良いほど登場する伝説級の剣じゃない。

 だけど わたしは疑問に思う。

「でも、大魔王が出現したこの時期に、なんで武闘大会なんか開催するの?」 

「大魔王軍に対抗するために、強者を集めるための一環として開いたそうです。上位者は騎士に取り立てて、中級あたりでも兵士に勧誘するそうです。

 即席で王国軍の戦力増強を図ったってことですね」

「なるほど。

 ってことは、その大会に中隊長さんと兄貴が出場して優勝すれば、ドラゴンスレイヤーが手に入ると」

「そのとおりです。でも、出場受付がもうすぐ締め切られるんです。急がないと間に合わないかもしれません」

「よし! すぐに出立しましょう!」



 魔兵将軍親子は炉歩徒の新しい武器の開発で聖王国に残ることに。

 そして精霊将軍は、

「私は大魔王の居城、大魔宮殿を探しに行こう」

「って、精霊将軍さん、大魔王の居城に行ったことないんですか?」

「大魔宮殿には転移装置で移動していたのだ。だから正確な位置が分からない。北極大陸のどこかというのは分かるのだが。

 私と魔兵将軍が使っていた転移装置は使えなくされてしまっているだろう。

 だから、大魔宮殿を攻めるには、自力で直接 行くことになるはず。

 そのために、私が正確な場所を探り出す」



 こうして わたしたちは再び別れて、それぞれ旅だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る