いやん、しぶい

 聖王国の首都から少し離れた森の中。

 わたしたちは聖姫さまの案内で、兄貴が勇者の力を手に入れたという、試練の聖殿へ到着した。

 これから聖姫さまが立会人となって、中隊長さんもその試練に挑むわけだが、その前に兄貴が基本的な説明をした。。

「聖殿に入ると、まず五柱の破壊神の石像があるでござるよ。

 魔神。竜神。戦神。闘神。獣神。

 この五柱でござる。

 そして試練を受ける者の適正に合わせて、五つの石像のどれかが反応するでござる。

 その石像に触れれば、試練が始まるでござる。

 破壊神の試練を乗り越えると、次に光の神々と面会するでござる。

 光の神々に勇者にふさわしい心だと認められれば、破壊神から邪悪を破壊する力、破邪の力を授かることができるでござる」

 中隊長さんは兄貴に質問する。

「その試練の内容はどんなものなのだ?」

「教えられぬでござる。教えてしまうと、その時点で失格と見なされ、試練を受けることができなくなってしまうでござる。

 試練の内容は、勇者になった者だけの秘密なのでござるよ」

「そうだろうな。勇者になれる方法を誰も知らないのだ。そういうことだろうとは思っていた」

 わたしは兄貴に、

「ところで、兄貴は どの破壊神から力を授かったの?」

「獣神でござる」

「妹に欲情する変態はケダモノ同然って事ね。なんで こんなのが試練に合格したのかしら? ああ、十七回も失敗してるんだったわね。神々も根負けして、しかたなく合格にしたわけか。やれやれ」

「酷いでござる、マイシスター。とほほほ」



 中隊長さんが試練に挑もうと、聖殿に入ろうとしたときだった。

「待て」

 それを制止する者が現れた。

 その人物は、おひげが似合うダンディーで素敵なおじさまだった。

 いやん、しぶい。

 中隊長さんに緊張が走る。

「貴様は竜騎将軍!」

「竜戦士よ、こんなに早く俺と再会するとは思っていなかったか?

 どうした? 体が震えているぞ」

 聖姫さまが愕然とした様子で、

「そんな……この者が なぜ その力を? この者は魔族のはず。それなのに どうして?」

 わたしは聖姫さまに、

「どうしました? 竜騎将軍になにかあるのですか?」

「この者は勇者です。竜神から破邪の力を授かっています」

 勇者って……

「ええ?! なんで?! 魔族が勇者で しかも勇者が大魔王軍の将軍!?」

 竜騎将軍はわたしの質問に答える。

「俺はかつて人間だった。百年前に邪悪なる存在を破壊するために、この試練の聖殿で竜神から破邪の力を授かり、勇者となったのだ。

 そして さらに大魔王様から力を授かり、より強力な体を持つ魔族となったのだ」

 聖姫さまが鋭く問う。

「勇者がどうして大魔王軍に付いているのですか?!」

「簡単なこと。人間こそ悪だからだ。

 獣神から力を授かった勇者よ。そして新しき竜戦士。俺がここに来たのは、他でもない。おまえたちを仲間に勧誘しにきたのだ。

 勇者の使命は邪悪を破壊すること。

 人間こそ悪である。

 破邪の使命を全うせよ」

 その目は嘘偽りなく、自分の言葉を信じる、正義の目だった。

 そんな竜騎将軍にわたしは言ってやった。

「そのとおりですぅ。人間は悪い奴らばっかりですぅ。素敵な おじさまぁん」



 悪友はあきれたように、

「あんた なに いきなり 敵に甘えてんのよ」

「いや、その、しかたないじゃない。だって、なんていうか……」

 言いよどんでいるわたしを、魔兵将くんがフォローしてくれた。

「そうですよ。聖女さまは、聖王国で大臣とかに酷いこと言われて、傷ついていたんですよ」

「そうなのよぉん。間違っても 竜騎将軍が おひげが似合うダンディーで素敵なおじさまだったからとかじゃないのよぉん」

 悪友は眉間を指で押さえて、

「わかりやすすぎる」

 魔兵将くんはわたしに純粋な眼差しで、

「聖女さま。どんなことがあっても 僕は聖女さまの味方です」

「魔兵将くんってば、良い子 良い子」




 わたしは つい竜騎将軍に賛同してしまったわけなんだけど、しかし竜騎将軍は侮蔑の目。

「快楽にすぐに流される女め。貴様らのような淫売に惑わされると思っているのか。

 大魔王様から真の愛を教えていただいた俺に、そんな色仕掛けなど通用せぬ」

 こいつもBLかよ!

 わたしは試練の聖殿の壁を連続正拳突きしたのだった。



 それはともかく、中隊長さんは、

「貴様らの仲間だと? 答えは決まっている。断る!」

 そして勇者の童貞オタク兄貴も、

「拙者のマイシスターへの愛は永久に変わらぬでござる!」

 そこは変えて欲しい。

 竜騎将軍は闘気をみなぎらせる。

「ならば ここで 貴様らをまとめて斬り捨てるまで」

 そしていかにも業物と言った感じの大ぶりの剣を抜いた。

「覚悟は良いか。竜戦士、勇者」

 戦いが始まった。



 中隊長さんと兄貴は変身して竜騎将軍と戦う。

雷光電撃ライトニングボルト!」

竜突撃ドラゴンランス!」

 中隊長さんが、兄貴が放った雷をその身にまとって、竜の力を一点集中して突きを繰り出した。

 二人が同時に攻撃する合わせ技。

 今まで だてに一緒に戦ってきたわけじゃない。

 少しは連携や合体技もできるようになったのだ。

 しかし竜騎将軍は、

「剛竜破」

 一振りで中隊長さんをはじき返した。

雷光放電ライトニングプラズマ!」

竜斬破ドラゴンブレイブ!」

 放射状の雷攻撃と、斬撃から繰り出される破壊が合わさって、竜騎将軍へ。

 しかしそれも、

「剛竜衝」

 衝撃波によって全て迎撃した。

 ダメージがないというレベルじゃない。

 相手に届いていない。

 中隊長さんはおののいて、

「つ、強い。力の差が圧倒的だ」

 兄貴も悔しげに

「この男、拙者たちとは格が違うでござる」

 竜騎将軍は、

「どうした? 攻撃は終わりか? ならば次はこちらから行くぞ」

 そして剣を一振り。

「剛竜撃」

 中隊長さんと兄貴が吹き飛ばされて、

「グハッ!」

「ゲフゥ!」

 試練の聖殿の壁に叩きつけられた。

 二人とも、いきなり大ダメージを受けてしまったみたいだ。

 ヤバい。

 手も足も出ないとはまさにこのこと。

 このままじゃ、まずいことに。

 なにか手を考えないと。

 でも、なにもアイデアが出てこない。

 竜騎将軍が剣を構える。

「たいした余興にもならなかったな。今とどめを刺してやる」



 ピンチな感じで今回もオチなく続く……

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