姫騎士さん

 魔王を変な感じで退けたわたしたちが、西の王国へ向かう途中の、森の道でのことだった。

「キャー!」

 突然 女の子の悲鳴が聞こえた。

「みなさん、行きましょう!」

 わたしたちが悲鳴の元へ向かうと、五匹の魔獣が、十歳くらいの女の子に襲いかかっていた。

 しかし それを、甲冑姿の凜々しい若い女性が、魔獣から女の子を庇いながら戦っていた。

 でも、多勢に無勢。

 それに女の子を庇いながらだから、明らかに不利。

「中隊長さん! 兄貴! 助けてあげて!」

「わかった」

「わかったでござる」

 甲冑の若い女性は、飛び出してきた二人を見て、誰何する。

「おまえたちは?!」

「加勢する!」

「助太刀いたす!」



 二人の加勢によって五匹の魔獣を難なく追い払うことができた。



 周囲が静かになると、女の子は甲冑の女性に抱きついた。

「うわぁーん! 姫騎士さまー! こわかったよー!」

 姫騎士?

 わたしはその呼び名が引っかかった。

 そして姫騎士と呼ばれた、甲冑姿の凜々しい女性は、わたしたちに軽く頭を下げてお礼を言った。

「助かった。感謝する。

 だが、おまえたちは何者だ? なぜ こんな道を歩いている?」

 そう、この道は主要道から外れている。

 魔王の襲撃に遭ったわたしたちは、少し遠回りになるが、敵に見つかりにくい道を使ったのだ。

「西の王国へ向かう途中なのです。道はこのままで合っているでしょうか?」

 姫騎士さんは方角を指差し、

「合っている。西の王国はこの方向へ道なりに進めば、三日で到着する。

 わかったら 早く行け」

 なんか、つっけんどんというか、わたしたちを不審者か何かだと怪しんでいるみたいだ。

 中隊長さんはカチンときたようで、

「その態度はなんだ。俺たちは君たちを助けたんだぞ」

 姫騎士さんは中隊長さんを睨み付けて、

「おまえたちが見るからに怪しいからに決まっているだろう。それに、主要道から外れた、こんな森の中の道を使うのも不自然だ」

 中隊長さんは、

「俺たちは大魔王を倒す旅をしているんだ。

 彼女は聖女。そして銀の月光の宮廷魔術師に、いちおうは勇者。そして俺は竜戦士だ。

 こんな道を使っているのは、魔物の襲撃を警戒してのことだ」

「ふん。すぐにわかる嘘を吐くな。

 そこの勇者とやらは さっきから薄気味悪い不気味な笑みを浮かべているし、銀の月光の宮廷魔術師とやらは醜い贅肉の塊。竜戦士とかいうおまえはまともそうだが、しかし、一番 怪しいのは、聖女とかいう その女だ。その眼を見ればわかる。嘘つきの眼だと」

 うっ、この女の人、鋭い。

「さっさと立ち去れ。西の王国へは三日ほどで到着する」

 わたしは中隊長さんの裾を引っ張って、

「あの、ここに居て欲しくないみたいですし、早く行きましょう」

 嘘がばれないうちに退散することにした。



 悪友は一通りの説明を聞いて、感想を言った。

「なんていうか、その姫騎士って人、陵辱系ヒロインみたい」

「わたしもそう思った。

 っていうかさ、甲冑姿の凜々しい女性で、そういう発想が出てくるわたしたちって、かなりゲーム脳が進んでるわね」

「で、実際はどういう人なの?」

「西の王国の王女さま。男勝りで剣術に優れてるから、国のみんなから姫騎士って呼ばれてるんだって」

「うん、想像通りだった。そして まんま陵辱系ヒロインだわ」

「「ハハハ……」」

 わたしたちは二人して苦笑した。



 わたしたちが去って行ったあとの、姫騎士さんの話をしよう。

 姫騎士さんは女の子を連れて、森の中の村に戻った。

 村で二人の帰りを迎えたのは引退した女騎士隊長。

「娘を見つけてきてくれたんだね。ありがとうよ、姫騎士さま」

「なに、お安いご用だ」

 姫騎士さんは、父親である王さまの命令で、その村に避難していた。

 西の王国周辺に魔物の姿の目撃例が増えていて、その報告は王さまにも上がってたから、戦火が上がる前に、姫騎士さんを避難させたとか。

 で、避難先の村は、姫騎士さんに剣術を教えていた、引退した女騎士隊長の村。

 住んでる家も女騎士隊長さんの家だって。

 ちなみにさっきの女の子は、女騎士隊長さんの娘さん。

 森の果物とか木の実を取りに行ったんだけど、帰りが遅いから姫騎士さんが探しに行ったら、魔物に襲われていた。

 それで助けようとして、でも苦戦して、そこにわたしたちが来たというわけ。



 女騎士隊長さんは娘に、

「姫騎士さまにちゃんとお礼は言ったかい?」

「言ってない」

「ちゃんとありがとうって言わなきゃダメだろ。ホラ」

 女騎士隊長さんが娘に促しても、娘さんは首を振る。

「言わない」

 女騎士隊長さんは娘に厳しい目を向ける。

「なんでお礼を言わないのさ? 助けて貰ったらちゃんとありがとうって言いなさい」

「言わない。だって、姫騎士さまも ちゃんとありがとうって言わなかったんだよ」

 娘さんは姫騎士さんに非難の眼を向けていた。

 女騎士隊長さんは怪訝に、

「なんのことだい?」

「あのね、お母さん。わたしたちを魔物から、聖女さまと勇者さまと竜戦士さまとメタボのオッサンが助けてくれたんだよ。でも姫騎士さま、その人たちに ちゃんとありがとうって 言わないで 追い払っちゃったの」

 娘さんの非難に、気まずそうな姫騎士さん。

「いや、それはだな……」

 言い訳しようとする姫騎士さんに、娘さんは、

「姫騎士さま、どうしてあの人たちに ありがとうって言わなかったの?」

「あいつらは怪しい。こんなところをうろついているなんてどう考えても不自然だ。

 トラブルが起きないうちに、さっさと出て行ってもらった方が良いんだ」

「でもぉ……」

 娘さん、姫騎士さんをジーっと見つめる。

 姫騎士さんは根負けしたように、

「わかった。あいつらが街道までたどり着けたか見てくる」



 さて、魔王軍の動向を説明しよう。

 姫騎士さんが避難していた村から、そう遠く離れていない森の広場。

 そこでは大魔王軍が集結しつつあった。

 冒険者組合などの推測通り、軍隊を編成して、西の王国を攻める計画だったのだ。

 大魔王軍は六つの軍団で構成されている。



 妖術師軍団。

 精霊士軍団。

 魔法兵軍団。

 獣戦士軍団。

 隠密兵軍団。

 竜騎士軍団。



 その内の一つ、精霊士軍団が西の王国を攻める担当だった。

 そして精霊士軍団の精霊将軍は、魔王から通信で連絡を受けていた。

「精霊将軍よ。西の王国の攻略はどうなっている?」

「軍の編成が完了しました。そして西の王国へ向かわせた偵察部隊からの報告から考察するに、機は熟したと見るべき。総攻撃を仕掛ける頃合いかと。必ずや西の王国を落としてご覧に入れます」

「ふっ、女ながら頼もしいな、精霊将軍よ」

 そう、精霊将軍は女なのだ。

 甲冑姿の凜々しい女性で……



「ちょっと待って」

 悪友がいきなり話を中断させた。

「なによ?」

「あのさ、姫騎士さんは甲冑姿の凜々しい女性なのよね?」

「そうよ」

「で、精霊将軍も甲冑姿の凜々しい女性なの?」

「その通り」

「キャラ かぶってるじゃん」

「わたしも心底そう思う」



 話を戻そう。

 魔王は通信で精霊将軍に指令を出していた。

「西の王国を攻める前に問題が起きた。西の王国の近くに聖女一行が来ている。王国に到着されると、思わぬ敗北の要因となってしまうかもしれん。総攻撃を仕掛ける前に、先に聖女をおまえが始末するのだ」

「聖女の始末ですか。ふっ、ご安心を。私の剣ならば、赤子の手を捻るよりもたやすいこと」

 魔王は厳しい表情になる。

「油断するな。聖女には勇者と竜戦士が付いている」

 魔王は映像を見せる。

 精霊将軍は映像のわたしたち一行を見て、

「この冴えない男が、魔王殿を一度 倒したことがあるという勇者ですか。確か 変身するのでしたね」

「そうだ。普段は冴えない男といった感じだが、雷電白虎に変身すれば、まさに勇者の名に恥じぬ強さを見せる」

「その隣の騎士が、妖術将軍が報告していた新しき竜戦士」

「まだ力を使いこなせていないようだが、油断はするな。人間は短い期間で急激に成長する。すでに 竜戦士の力を、ある程度は使えるようになっているかもしれん」

 そして精霊将軍はオッサンを見て怪訝に、

「このメタボは?」

「銀の月光の称号を持つ宮廷魔術師だそうだが、ハッキリ言ってザコだ。だが 一応 念のために始末しておけ」

 魔王から一通りの説明を受けた精霊将軍は、好戦的な笑みを浮かべる。

「メタボはともかく、勇者と竜戦士は相手にとって不足なし。

 魔王殿と共に、大魔王様から力を与えられた私は、かつてより遙かに強くなった。

 その力を思う存分 振るってみたかった」

「ふふふ、頼もしいな、精霊将軍よ。

 聖女の位置はこちらでわかった。座標を送る。そこへ迎え」



 こうして、西の王国に向かうわたしたちを始末するために、精霊将軍は出撃した。



 悪友は質問する。

「で、オチは?」

「今回はないわ」



 なんかシリアスな感じになってしまった。

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