役立たずの童貞メタボ

 妖術将軍から離れるために、神殿に撤退した わたしたち。

 迅速に発情薬を解毒しなくては、NTRエロゲーの展開がリアルになってしまう。

 しかし、心配することはない。

 わたしたちの仲間には、国で最大の魔力を持つ、銀の月光の称号を持つ宮廷魔術師がいるのだ。

 魔法にかけては一流だと王さまも保証したエキスパート。

 見た目は中年、中身は十二歳。

 オッサンだ。

「オッサン、お願いします」

 わたしは安心して、オッサンに解毒の魔法をかけてもらった。

 結果は、

「すいませんです。特殊な発情薬で、解毒できませんでしたです」

「ふざけんじゃねえぞコラ! テメェを連れてきたのは王さまが役に立つって保証したからだぞ! それなのに解毒できねぇってどーいうことだよ?! メタボは体だけじゃなくて脳みそもかよ!? 童貞のうえ役立たずなんざ救いようがねーな! 役立たずの童貞メタボって世界中から言われてーのか! この役立たずの童貞メタボが!!」

 と、オッサンをボロクソにけなしたのは、わたし。

 切羽詰まって言い過ぎちゃった。

 テヘ ペロ。



 中隊長さんが わたしを抱きしめて、

「落ち着くんだ。こういう時こそ冷静にならなくては。役立たずの宮廷魔術師殿を責めてはいけない」

 中隊長さん、さりげなく役立たずって言った。

 でも わたしは そんなこと 気にしないで、中隊長さんを抱きしめ返す。

「そうですね。役立たずの童貞メタボのオッサンを責めてる場合ではありませんでした」

 オッサンは泣きながら、

「シクシク。二人とも酷いです」



 なんて言っている間に、わたしの身体がなんだか熱くなってきた。

 特に女性の大切なところが。

 っていうか、ストレートに言うとオナりたくなってきた。

「ヤ、ヤバいです。発情薬の効果が出てきたみたい。ど、どうしよう?」

 わたしは全身から嫌な汗が噴き出し、本格的に恐怖心が湧き上がってきた。

 このままだと、ホントに あのエロジジイの性奴隷になる。

 なんとかしないと。

 なにか方法を考えないと。

 でないとNTR展開に。

 でも、オッサンが役立たずだったから、なにも方法が思いつかない。 

 王さま なに大嘘ぶっこいてんだよ!

 オッサン全然 役に立たねーじゃねーか!

 なんて この場にいない王さまに文句を言ってもしかたがない。

 こうなったら、

「中隊長さん、最後の手段です。貴方の童貞をこの場で受け取ってあげます」

 中隊長さんは当然 理解できないように、

「君はいきなり なにを言い出すんだ?」

「わたしの性欲を全部 中隊長さんが解消してくれれば、あの変態妖術将軍への欲求がなくなるかもしれません」

「しかし、そんなことをすれば、君は聖女の資格を失ってしまう」

「このままだと みんなの前であのエロジジイの物をくわえ込んでしまうんです!

 いいじゃないですか! 中隊長さん わたしに筆下ろしして欲しかったんでしょう!? チャンスですよ!」

「こんな形で童貞を受け取って貰っても嬉しくない!」



 なんて わたしと中隊長さんが話をしていると、オッサンが、

「あのー、ちょっと良いですか?」

 怖ず怖ずと右手を挙げた。

「なんですか? 役立たずのオッサン」

「僕がですね、聖女さまとですね、エッチするというのはですね、どうでしょう?」

「……」

 三秒の沈黙の後、わたしはオッサンにボディーブローの連打を開始。

「ふざけんじゃねえぞ! テメ! この野郎! 役立たずの童貞なんざ欲しくねえんだよ! っていうか究極の選択だろうが! ジジイとテメェとじゃ どっちもどっちなんだよ! 対して変わんねえんだよ! つーか なに どさくさに紛れてアタイで童貞卒業しようとしてんだよ! アタイの身体はそんなに安くねーんだよ! 誰がテメェにしてやるか! この役立たずの童貞メタボが!」

 ひとしきりボディーブローの連打を終えると、オッサンは地面に倒れて、

「シクシク、シクシク」

 泣いていた。



 激しい運動をしたせいで薬が回ってきたのか、本格的にヤバくなってきた。

「ど!ど!ど! どうしよう!?

 なんか あの妖怪エロジジイの所に行きたくなってきました!

 ヤバイ! ヤバイです!

 ジジイとヌポヌポやってる想像が頭の中を駆け巡ってます! 変態ジジイの所へ行ってイカされたいとか思っちゃってます!

 中隊長さん! お願い! 助けると思って わたしと エス!イー!エックス! をしてください!」

「気をしっかり持て! 君は女神に選ばれた聖女だろう! 王子に陵辱されようとも心の清らかさを認められた聖女だ! 君は薬なんかに負けたりしない!」

 あー! そうだった!

 聖女になったのを大嘘でごまかしたんだった!

 ヤバい。

 二重の意味でヤバくなった。

 ここでジジイに犯されたら、処女じゃなくなって聖女の資格を失うだけじゃなくて、王子に陵辱されたのが嘘だってばれるんだった。

 どうしよう?

 なにか方法を考えないと。

 でないとマジで色々ヤバい!



「クソォ!」

 中隊長さんは拳を地面に叩きつけた。

「なぜだ!? なぜ俺には力がないんだ!?」

 なぜにいきなり少年マンガみたいなことを言い出したの?

「君の兄は勇者の力がある。宮廷魔術師殿も役立たずだったが魔力の大きさは国で最高だ」

 オッサンが泣きながら、

「さりげなくですね、僕をけなしたですね」

 中隊長さんは無視して続けた。

「俺だけだ。俺だけが何の力もないただの人間だ。俺は魔法もろくに使えない。俺に力があれば君を救えたはずなのに。

 王子の時も、今も、俺は君を救えたことが一度もない!」

 わたしは中隊長さんの心の声を聞いて思った。

 ヤバすぎる。

 中隊長さん、シャレになんないくらいマジでシリアスに わたしのこと想っちゃってるんだもの。

 これで わたしが変態妖術将軍に犯されて、

「ヘタレの中隊長さんは一生童貞だろうけど わたしが他の男の物をくわえ込んでいるのをオカズにシコシコしててねぇ」

 などというNTRなエロゲーにありがちなセリフをリアルに言ってしまおうものなら、NTR趣味に目覚めてしまうかもしれない。

 一生 わたしが他の男の物をくわえ込んでいるのを想像しながら童貞のままシコシコしてしまう。

 本気と書いてマジでヤバい!

 ヤバさが連発している!!

 どうすりゃいいのよ?!



 悪友がうんざりしたように、

「あのさ、あんた 話を引っ張りすぎ」

「ああ、うん。確かにマンガでもスピーディーな展開が好まれるもんね。さっさと次へ進めるわ」



 大ピンチの時、突然 わたしが持っている聖女の杖が光り輝いた。

「なによ これ?!」

 その光はまっすぐに中隊長さんを照らし、そして次には中隊長さんの身体が光り輝いた。

「これは なんだ?! 俺の身体の中からすさまじい力が湧き上がっている!」

 驚愕する中隊長さん。

 そして わたしの心にロリ女神の声が聞こえた。

「緊急事態のようなので、聖女の力を強制発動させた。聖女の力によって、そのイケメン中隊長の秘められた力を覚醒させたぞ」

 なんて言われても意味がわからない。

「いや、聖女の力とか 秘められた力ってなんです?!」

「説明より先に、エロゲーのような薬を解毒しろ。今の中隊長なら解毒できるぞ」

 よくわからないけど、わたしは中隊長さんに、

「わたしの発情薬を解毒してみてください。細かい説明は後でしますから、とにかくやってみて」

「わ、わかった」

 中隊長さんが解毒の魔法をかけると、わたしの身体の火照りが急速に沈静化していった。

「やった。治りました。発情薬の効果が消えました」

 わたしはホッと息をついて胸をなで下ろした。

 そして続けてロリ女神の声が心の中で、

「次はダメ勇者のところへ行け。かなり苦戦しておるぞ。しかし中隊長の力ならば、あの機械の魔物に通じる」

「わ、わかりました。

 中隊長さん、女神からの指令です。覚醒した中隊長さんの力で炉歩徒を倒せと」

 中隊長さんは事態が飲み込めないようだったが、

「め、女神から? よくわからないが、とにかくこの力であの炉歩徒と戦えば良いんだな」



 神殿の外へ出ると、勇者の兄貴たちが苦戦していた様子。

 童貞オタク兄貴がわたしを見ると、

「マイシスター! 毒はどうしたでござるか!?」

「中隊長さんが魔法で治してくれたわ」

 その中隊長さんの身体から闘気が立ち上っていた。

 それを見て童貞オタク兄貴は驚愕した。

「なんですと! その闘気は竜戦士ドラゴン ウォーリアーの力! 貴殿は竜神の血に連なるものでござったのか!」



 悪友がそこで、

「ちょっと待って。いくらスピーディーな展開が受けるって言っても、今度は話が急展開すぎてついて行けないんだけど。

 まず 竜戦士ってなに?」

「竜戦士っていうのはね。五柱の破壊神の一柱、竜神の血を受け継いでいる者に現れる、破壊の力で邪悪を討ち滅ぼす、破邪の戦士のことなんだって。

 後で中隊長さんが教えてくれたんだけど、中隊長さんの家系の始まりが、その竜戦士なの。

 王さまがメンバーに加えたのも、それが理由の一つだったわけ。

 その力をロリ女神が聖女の力で覚醒させたわけ」

「なんか少年バトルマンガの展開ね。

 で、聖女の力ってのは?」

「ロリ女神の説明じゃ、ようするに人間の秘められた力を覚醒させたりする力なんだって。ただし、他の人の力は覚醒できても、自分には使えないの」

「ああ、そういえば 単体じゃ意味がないとかって言ってたわね」 

「そうそう、そう言うこと。

 ただ 過剰に使うと、覚醒どころか暴走するかもしれないから、使いどころとか、力加減には注意しないといけないんだけど」

「その辺は想像できてた。ロリ女神も言ってたんでしょ。使い方を間違えると味方を傷つけるとかなんとかって」

「うん、言ってたわね」

「ありがち ありがち」

「「アハハハ」」

 わたしと悪友は二人して、ありがちな話に笑った。



 ありがちな話です。

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