さぁ夢の国へ。最後に見る夢の世界
さかき原枝都は(さかきはらえつは)
第1話 × バツ 罰?
それはいきなり鳴ったスマホから始まった
「緊急の役員会? な、なんで今時期。どうしても出なきゃいけないんですか?」
分かりました。出席いたします。
緊急の役員会。私の会社では珍しい。
誰か飛んでもない不祥事を起こしたのか?
業績だって悪くはない、むしろ上がっているじゃない。
何が不服だって言うの? まったくうちの役員にはましな人物はいないんじゃない?
ま、その中に一人だけはいるんだけどね。ちょっとましな奴。
3時からか……。もう時期じゃん。
クライアントとの打ち合わせ、伸びちゃったからなぁ。
タクシー拾わなきゃ。
視界に入ったタクシーに手を上げ、乗車をアピール。
止まってくれると思ったタクシーは、ス―と私の前を通り過ぎた。
空車じゃなかった。
「ちぇっ!」
いつもは空車のタクシーがこの駐車スペースに2台は止まっているのに、今日に限って1台もない。それになんだろうやたら空車のタクシーにあたらない。
月末、年度末でもあるまいに、今日は付いていない。
「はぁ。」
ため息が漏れる。
「La misère(厄日)」
呟いたその一言が私の運命を物語っていたとは、今はまだ知らなかった。
「まったくこの『Tokyo』ていう街は忙しすぎる」
ま、でも手を上げれば止まってくれるタクシーに出会えるのは、この『Tokyo』ぐらいのもんだ。
フランスじゃ、流しのタクシーなんかには絶対に乗らないし利用なんかしない。
怖くて、何されるかわかったもんじゃない。メトロ(地下鉄)の方がよっぽど便利がいい。
それだけこの街は安全でもあるんだけど、タイミングが悪いとほんとうに困る。
また目に入ったタクシーに手をあげた。ウインカーを点滅しながら私の前で停車した。ドアが自動で開く。
初めてこの『Tokyo』でタクシーを使った時、ドアが勝手に開いたのには驚いた。
自動ドアだったなんて予想もしていない動きに、ポカンとしていたのを思い出す。
あの頃は、希望に満ちていた。
何でも出来ると思っていた永遠に。
始めは本当に小さなものだった。私だけの想いが形になり、人が集い、一つの会社としてその姿は変えていった。
たった一人から立ち上げた小さな仕事は今や、従業員数300名を誇る企業となった。
Pays de reve ペイドゥリーヴ社。私はその会社の代表として今仕事をしている。
代表、つまりは『社長』と呼ばれるようになった。
来年には株式上場をする計画がすでに本決まりになっている。
そうなればまた多くの資金を調達できるようになり事業の幅も拡大できる。
前途は明るい。
怖いものなど何もない。
止まったタクシーに乗り込み行き先を告げ、車が動きだしたと同時にスマホがまたなりだした。
耳にかぶる長い金髪を軽く寄せ、スマホを耳にする。
「はい、スレイユです」
私のスマホに直接かかってくる電話は会社からか、もしくは親しい友人位のものだ。いちいち着信番号なんかは確認しない。
「あのぉ、スレイユ・ミィシェーレさんの携帯でよろしかったでしょうか?」
ちょっと控えめな感じのいい声の男性だった。
「はい、そうですけど……」
「あ、よかった。私、城環越大学病院、医師の上原と申します」
城環越大学病院。その時はっと思い出した。
今日はその病院で、この前行った検査の結果を訊くことになっていた。
「スレイユさん今日ご予約日だったんですけど、ご来院されませんでしたので、失礼とは思いましたがご連絡をさせていただきました。お忙しいところ申し訳ありません」
「あ、いえ。私の方こそすみません。すっかり忘れていました」
「忘れてた?」呟くように思わず出したであろうという言葉に、その医師の苦笑いの顔が浮かび上がる。
「すみませんスレイユさん。これからでもよろしいので、こちらにお越しいただくことは出来ないでしょうか」
前に受けた健康診断で、再検査項目に該当した私は、あの大学病院で再検査を受けた。
その検査結果が今日出ることになっていた。
「これからですか?」
「ええ、できれば」
「すみません、私これから緊急の役員会がありまして、今、会社に戻るところなんですけど、済みませんけど、この電話で検査結果お聞きするわけにはいきませんか?」
検査結果。どうせ異常なし。まぁ、何かあったにせよ、軽いもんだと私は思っていた。
だって、どこも異常はないんだもの。痛かったり苦しかったりなんて何もない。
いつも通り、私は元気。
私の問いにその医師は渋るように
「そうですか。お忙しいのは十分にわかっています。ですが、お電話ではなかなか説明が難しく、直接説明を聞かれた方がよろしいかと思います。それに出来ることならば、早急にお聞きしていただきたいのですが」
電話では難しい? しかも早急に?
何かいやな予感がする。
そんな時、ふと感じた。今向かっている私の会社でも、いやなことが待ち構えているような。そんな感じがした。
その医師は電話口で柔らかな感じで言った。
「ご理解いただけますでしょうか?」
彼のその声に引き込まれるように
「仕方がありません。短時間でお願いいたします」
「わかりました。できるだけ要点だけをお伝えできるように準備させていただきます」
その言葉を聞き、通話を切った。
「すみません。行き先を変更してください」
「はい、どちらまで?」
「城環越大学病院へ」
その時一瞬。
私の目に幼いシスターの姿が映った。
だが、その姿は視界からすぐに消えていった。
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