少年探偵団ごっこ
佐久間零式改
第1話
夕暮れが閑静な住宅街をじわりじわりと浸食していた。
東京都のベッドタウンであるからなのか、住宅街を一歩外れると、まだまだ自然は残されている。
開発途中のまま放置されている小さな山へと続くコンクリートの道があるものの、長い年月整備されておらず、道はヒビだらけだった。
僕はそんな道を駆け足で登っていた。
その先にある山には僕の『秘密基地』があると同時に、僕が結成した少年探偵団の拠点でもある。
そこは少年探偵団の特殊な空間だ。
そこにいて、事件についてあれこれ考えているだけで特別な気分になれる。
その気分というのは当然ながら『名探偵』といったものだ。
道路は途中で途切れていて、そこから先は山道になり、そこをある程度進んだところにある、手入れが全然なされていない分かれ道があって、その獣道みたいな道を進むと秘密基地がある。
元々は民家だったらしいけど、数十年くらい誰も住んでいないのか、いつでも崩れ落ちてもおかしくはないボロ小屋だ。
そこが少年探偵団の秘密基地だ。
ドアだけはまだ健在ながらも立て付けは当然悪くて、開けるのに一苦労する。
そのドアを開けると、中にこもっていた鼻を覆わんばかりの臭気がむわっと漂ってくると同時に羽虫などが出て来た。
中で大量発生している虫を逃がすためにも、僕はドアを開けたままにして中へと入っていく。
床は当然腐っていて、穴が所々空いているので、秘密基地として使えるのは土間だけだ。
その土間は元々は炊事などをする場所であったようで結構広くて、何人か集まっても大丈夫な広さだ。
僕がその土間に踏み込んで家中を見回す。
「……待った?」
土間ではなく、家の奥の方に人影があった。
あれは少年探偵団の一員だけど、名前を教えてはもらっていない『名無しくん』だ。
彼はかたくなに自分の名前を口にしてくれない頑固者だ。
だから、僕は『名無しくん』と読んでいるし、そう呼ばれても名無しくんは嫌がったりはしない。
名無しくんは奥の方で壊れたタンスの上に腰掛けていて、土間の方に身体を向けている。
「そこ、危なくない?」
そう訊ねても、名無しくんは答えてもくれない。
名無しくんは少年探偵団に関する事以外には答えてはくれないみたいだ。
「何か面白い事件起こらないかな? あ、でも、起こっているよね、きっと」
返事はなかった。
「ちぇっ、付き合いの悪い奴」
僕は思い出したように、
「まあ、いいや。何か少年探偵団向きの事件が起こるといいんだけど。ああ、でも、こういうのは『ふきんしん』っていうのかな?」
考え事でもしているのか、名無しくんは押し黙っている。
「もういいや。君がまだいる事が分かったし。事件があったら、一緒に推理しようね」
僕は夜が近づいてきている事を察知して、そう言うなり秘密基地を飛び出して、来た道を引き返して、自宅へと急いだ。
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