第129話君が戴く世界の明日3
街はお祭り一色で、出店がズラリと通りに並び多くのヒトで賑わいをみせていた。
「これ、おいしいね、ひゃっ」
私はようやく彼に降ろしてもらい、サクサクのワッフルコーンに乗っけられたイチゴアイスを食べ歩きしている。
「ペロペロ、美味いな」
「は、んむ!?」
レイは、私の口元を舐めて感想を言う。私はこれから先、このワンコに舐められない日は無いのかもしれない。
レイは、串に刺した揚げ餅のような食べ物を口に運ぶ。
「それ好きなの?」
「まあな、食べてみるか?」
聞きながら、私に串の持ち手の方を向けてくるので、口を開けると餅にぱくっとかぶりついた。
「は…」
「うむうむ、ほお、香ばしいあ、じ」
口をモグモグしながら彼を見たら顔を赤らめていて、それを見たらつられて、こっちも赤くなって俯いてしまう。
何だろう、この初々しい付き合いはじめたばかりのカップルみたいな感じ。
「おかしい………」
「ん?」
私から顔を反らして、レイが自分の胸をさすさすと擦る。
「ドキドキが半端ない」
「大丈夫?病院行く?」
「そうじゃなくて……ようやくレティに会えたと思ったら、その」
「う、うん………」
口ごもってしまう私達。繋いだ手に汗をかいている。
そんな私達を、魔族のヒト達は温かい眼差しで見守っている。邪魔してはいけないと思っているのか、皆私達に気付くと笑顔を向けてくるけれど近寄って話しかけては来ない。
ふとレイが、アクセサリーを売る出店で足を止めた。
並んでいるそれらを真剣な顔で、じっと検分している。
「………これがいい」
一つ髪飾りを手にして、私の髪に当てて満足げに笑う。
「誕生日プレゼント」
支払いをして私の手にポン、と置いてくれたのは、丸い形の真鍮性の枠に青と緑の色硝子を流し込んだ少し大振りな髪飾りだった。
「可愛いね。ありがと、えへへ」
はにかんでハーフアップにしていた髪を一度ほどくと、もらった髪飾りで一つに括り直した。
「えへへ、いい感じかな?」
レイの方にくるっと髪を向けて見せて、振り返って笑いかけた。
「……………うぐ…………………」
「へ?あれ?」
変な声を上げて、へたりとレイは座り込み顔を手で覆った。
****************
祭りの締め括りは花火というのは、人間界も魔界も定番で、レイは城の最上階のテラスで、花火を見る為にレティシアがドレスを着替えて来るのを待っていた。
「今回の花火はヘパイストース国の協力で、5色の色を出すことができるそうです」
ギルが、テラスの柵に手を置いて眼下の夜景を眺めているレイの隣に並ぶ。
「レイ様」
「んー?」
「以前言った言葉を撤回させて下さい」
神妙に頭を下げる彼に、レイはどういうことかと顔を向けた。
「レティシア様の代わりはあっても、あなたの代わりはいないと」
「ああ、言ってたな」
「レティシア様の代わりはいないと……認めます。あの方は…あの娘は、よくやっています。私はレイ様がいなくなって、あの娘にいつあなたが帰ってくるかわからないから、人間の国で良い人を見つけて幸せになりなさいとも言いました」
「言ったのか!」
「でもあの娘は頑として拒否して、あなたを死ぬまで待つと言ったのです。それまで、あなたの代わりにこの国の為にできることをしたいと言って」
顔を歪めて手元を見つめるレイに、ギルは微笑した。
「聖女の任から逃げたのに、もっと大変な役目を自ら背負ったのです。傍で見ていて、彼女がどれほど頑張ったか私にはよくわかりました。だからレイ様、レティシア様の代わりはいないのです。しっかり褒めてあげて下さい」
「……わかった」
言葉少なに頷くレイは、さっきから物憂げにため息ばかりついている。
「どうかしましたか?何か悩みでも?」
ギルは彼の顔を覗き込んで聞いた。
そんな部下に、レイはしばし黙っていたが、やがて意を決したように呟いた。
「………レティが可愛すぎて辛い」
「馬鹿ですか」
「レティを見るだけで胸の高鳴りを抑えきれない」
「さっきの私の話、なんだかいろいろパアになった気がします」
「俺はこの先、こんなに心臓をドキドキで酷使して生きていけるんだろうか?」
「最近知った言葉使ってもいいですか?リア充爆発しろ」
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