第33話君の尻尾をモフりたい2
目を閉じて身体の力を抜いた。床に魔力で染めてもらった黒髪が広がる。
クロは、どうも欲求不満みたいだ。私が唇はダメと言ったせいらしいけれど、ちゃんと教えておかねば。
だって、大きくなって誰かれ構わずキスしだしたら…まずいでしょ?
噛まれるのは、その不満の代替えだろうから、受け止めよう。
一口だけなら…
「…………」
首にかぶり付いて動きを止めていたクロは、私の言葉に反応したのか、ゆっくりと首から口を離した。チャリ、と首に掛かるペンダントが揺れている。
ほうっと息を吐いたところを、素早く私の襟元を剥いだクロが、肩に噛みつく。
「あ、あ!?」
次に鎖骨に噛み付かれ、わたわたと抵抗しようとした手を掴まれて、クロの片手で両手ごと頭上で纏め上げられてしまった。ハサミを木っ端微塵にする力だ、手の自由は呆気無く奪われてしまった。
「や、クロ、ああっ」
耳をパクリと噛まれて、何だろ?疼きのようなものを感じる。身体がぞくりと震える。
一口って言ったのに……
「もう、やめて」
はあはあ、と息を乱してクロに目をやると、二の腕をはむはむしながら、マイペットはご満悦のご様子。
優越感に浸るように、私の顔を眺めて、意地悪い笑みを浮かべていた。
……そろそろ本気を出す時がきたようだ。
「…………こんにゃろ」
ガシッと両足でクロの腰をぎゅっと挟む。
「な、あ!?」
所詮は身の軽い子供。勢いをつけて、そのままくるりと半回転すると、クロは私に押し倒される側になった。
「クロさんよぉ、舐めてもらっては困るぜ」
ペットに舐められてたまるかい。驚いて目を丸くしているクロに、デュークさん的なセリフを真似て、ふっと笑う。
「最近の聖女候補は、術だけでなく体術も習うんだよ」
「わ、ワン…」
呆然と私を見上げるクロが、次の行動を起こす前に同じように両手を頭上に纏め上げてしまう。勿論、真似されないように両膝でクロの太腿辺りをガッチリ押さえ込んでいる。
「体術はね、詠唱唱えている時に聖女が無防備になりやすいのを補うために習うよう、白亜様が始めさせたんだって」
「ウ、ウ…」
悔しそうに歯噛みしたクロは、私を睨んできた。
「クロさんよぉ、一口だけと言ったよね?何沢山カプカプしてんの、美味しいの?」
「……アウ」
ドスのきいた声で低く言って、目を細めて睨み返す。
「ごめんなさいは?」
「………………」
ムスッと黙るクロの首を、仕返しに噛んでやった。
「ぬあっ?!」
目を見開いて、身体を跳ねさせたクロだったが、なぜか嬉しそうな表情で、プルプルと小刻みに震えている。
「はむ、ごめんなはいは?」
クロの首をハムハムしながら、更に畳み掛けると、息を荒げたクロはがくりと目を伏せた。
「…ハア、ハア………キュウン」
「ん、よろしい」
ついでに、噛んだ首をクロの真似して舐めてから、身体を離してやった。
「よし、仲直りも済んだしチェックアウトしようか?」
ぐったりと転がって、クロはしばらく動かなかった。両手で顔を覆い、じっとしていていた。
私は隣の部屋から、開け放たれた洗面所のクロを見ていた。
私から噛んで舐めたのは子供にイタズラしたみたいで、後になって罪の意識が湧いて、クロを泣かしたかと思ったからだ。
荷造りしながら、そっと見ていたら、クロはかなり経ってから、ふらりと起き上がった。
そのまま、ぼうっと虚空を眺めていたが、思い付いたように、ほくそ笑んだ。
胸ポケットの辺りを触りながら、クロは私の方を向くと、くつくつと笑いだした。
…………やっぱりいじめすぎたかな?
おかしくなったのかもしれない。
私はその時はまだ、狂犬となったクロの恐ろしさを、知るよしも無かった。
あんな恥ずかしいことになるなんて!
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