第14話君はペット5

「一目見て、好きになったよ」

「グフッ!!」


「ああほら、がっつくから!」


 昼食のおにぎりを食べていたクロが、突然噎せて悶えた。体を折り曲げて咳き込む彼を膝に抱えて、背中を叩いてあげる。


 へパイストース国を南に徒歩で下る。転送魔法陣を使えば早いけど、急ぐことはない。両親には早く会いたいけど、クロが捕まえられたら嫌だから。


 ちなみにクロは、ちゃんと二足歩行だ。四つん這いで歩くのは、私がオッケーを出した時だけ。元々は、直立歩行なので、とてとてと普通に歩いている。


 途中の街道沿いにあった、食料売ってたり、馬車のレンタルをしている『道の駅』(ここ最近増えたなあ)でお弁当を買い、傍のカフェスペースで食べていた。


 小動物(クロ)が、はむはむと小さな口で食事をする姿は癒される。うっとりと見つめていたら、自然口を付いたのはペットへの愛の告白。


 苦しそうに息をしながら、クロは赤い顔で私を振り向いた。


「ケホッ、ワウ?!」

「え?さっきの言葉?」


 なんか段々とクロの言いたいことがわかってきたよ。


「だって、こんなに可愛いんだもん。好きにならないわけないよ!」

「……ワウ」


 ほっぺたを赤くするのは…照れてるのかな?おやおや…



 クロの両のほっぺたを手で包み、間近でじっと直視。


「……クロ、好きだよ」

「ギャウ!?」


 やっぱり!照れてるんだ!

 照れてワタワタするクロは可愛くて、私の嗜虐心を擽った。


「すきすきすきすき」

「ク、クゥン」


 情けないぐらいに照れて、私の手を剥がそうともがいてる。


「いやあん、可愛い!じゃあ、こんなのはどう?魔族にもこの言葉あるのかな?」


 私は笑いを引っ込めて、真摯な表情を装った。


「愛してる」

「グハッ!!!」


 攻撃でも受けたように、クロは悲鳴を上げた。そして、私の肩を突き飛ばした。


「わっ、とと!」


 尻餅を付いた。


「深紅!」


 私とクロの間に、光の矢が飛んできた。

 驚いて、声のした方向を見ると、橙が息を切らして立っていた。


「だ、橙?」

「深紅、怪我は?!」


 橙は私を庇うようにして、クロを睨んだ。


「おのれ!上級魔族!深紅を今殺そうとしたわね!」


 クロと私は思考を巡らせた。

 突き飛ばしたのを見た橙が、勘違いしてる?


「いや、違う違う。どちらかと言うと私がクロを悶え死にさせる寸前…」

「クロ?この魔族め!深紅をたぶらかして結界を破らせたばかりじゃ飽きたらず、利用するだけ利用して挙げ句に殺そうと!」

「いや、利用っていうか、癒してもらってんのは」

「許さない!」


 ……あかん、聞いてない。


「グルル…」


 橙の殺気に、クロが四つん這いになって唸った。


「だ、橙」

「深紅、離れて!」


 クロから私を守ろうとしてるの?

 最初にクロを見た橙、あんなに怯えていたのに…


 私は泣きそうになって、クロの方を見た。


「クロ、伏せ」

「キュウ?!」


 服従の術により、素早く伏せをするクロに、橙が目を剥く。


「……え?」

「うわあん!橙ぃぃ!」


 飛び付く私に、戸惑う橙が周りを見回す。


「深紅、皆見てるから!ちょっと!」

「わっ」


 気付いたら凄い野次馬。


「取り敢えず、場所変えよう」

「うん」


 命じた通りに地面に顔を伏せて、プルプルと体を震わすクロを私は抱き上げた。


 そんなに震えて、怖かったのかな?



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