第二章05 アレクサ王国分断作戦

※ワリド視点


 去年末までは寂れた無人の漁村だった場所に、川船がいくつも係留され、少なくない人数の者たちが桟橋の上に荷物を下ろしていく。


 降ろされた荷物は主に食糧。


 桟橋に下ろされた荷物は、人足が担ぐと急造で作られた小屋の中に運び込まれていった。


 小屋には『ユベントス商会オーラト出張所』と書かれている。


 わしはここで、ユベントス商会の副会頭ワーリと名乗り、農民反乱軍の首脳部との連絡係を務めていた。


 主であるアルベルト殿が、この地に到着するまでにいろいろと内情を調べているのだが……。


 本当に酷いありさまだった。


 ザーツバルム地方西部各地を回っているが、農村は略奪放火され、荒廃し、小領主の城も略奪後は放火されて打ち捨てられたままのところが多い。


 そして、住む場所を失った農民は流民となり、この地を捨てて、別の地方へ逃げる者も増えている。


 一部はアシュレイの開拓村にいる親類縁者を頼って、スラト領へ向かっているとの報告も受けていた。


 今回の農民反乱のせいで、この地が落ち着くを取り戻すには数年はかかると思われる。


 この荒廃した地を押し付けられるゴラン殿は、ザーツバルム地方を押さえ、アレクサ王国から独立しても、簡単にはエランシア帝国に刃向かえない状態に陥る。


 半ば属国という形で対アレクサ王国の戦いに追われ、両者共倒れという形を迎えるかもしれない。


 そんな策を考え出したアルベルト殿は、やはり希代の軍師殿だ。


 彼に刃向かえば一族郎党を危機に晒しかねない。


 信用を得るには仕事に励むのと、娘のリュミナスに彼との子ができることが必須の条件だろう。


 彼と娘の子は、ゴシュート族のみならず、山の民にも良い恩恵をもたらしてくれるはずだ。


「ワーリ様、報告です」


 部下が差し出した書状に目を通す。


 農民反乱軍は略奪以外に目的を持たない流浪の行軍を重ね、食糧の手持ちが減ってきているらしい。


 こちらが食糧を提供するという話を部下を通じて行ったら、すぐに食いついてきた。


 自分たちの保身のために、こちらの食糧をあてにしてるらしい。



「それと、オーラト城に変な連中が居つきましたがどうします? いちおう農民反乱軍だと名乗って食糧の提供を求めてます」

「変な連中だと?」

「ええ、略奪するでもなく、ひたすらに武芸を鍛えてる連中です」

「なんだか、鬼人族っぽい連中だな。面白そうだ。わしが届けに行ってやろう」

「了解しました。すぐに準備します」


 しばらくして、食糧を満載した荷馬車を引き、オーラト城へ向かうことにした。


 そこで、変わった男と出会うことになった。

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