第15話 宿屋へ入ろう

「おい起きろ!」


「うぅ……ふぁふぇふぉふぁん……? おふぁおうふぉふぁいふぁふ」


「すまん、何言ってるかわからん」


「……もしかして、夕方ですか?」


「そうだぜ嬢ちゃん」


「あれれ?」



 馬車の中はやっぱり暇だ。暇さのあまり寝入ってしまった。そして気付けば夕日が落ちかけていた。


 わたしの寝ている間にエインヴェルズ街道へと合流したのか、今まで通っていた道よりも平らな道で、周囲には茂みが一切見当たらない。まるで定期的に誰かが雑草を刈り、木々を伐採し、辺りの見渡しを良くしているかのようだ。


 そして延々と続く街道を目を凝らして見てみれば少し先に屋敷のような大きな建物がポツリと寂しく建っていた。



「あれは何ですか?」


「ああ、あれか? 街道宿屋ってやつだ」


「街道宿屋?」


「ざっくり言えば冒険者とか旅人が野宿しなくても済むように造られた簡易宿屋だ。つってもそこそこでかい街に続く街道沿いのやつだと簡易じゃねぇだろってぐらいでかいけどな。あれみたいに」


「なるほどです」



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



帆馬車を格納庫に預け、馬々を厩舎へ預けたわたしたちは開け放たれた屋敷の扉を潜った。


 まず目についたのが木造りのカウンターだ。そこには一人の青年が立っており、わたしたちが入ってくるなり綺麗なお辞儀を丁寧に披露した。妙に耳の長いのが特徴的だ。


 カウンターへと続く赤い絨毯の道を挟むように広々としたエントランスにはソファーや机などが幾つも置かれ、それらに座って歓談する冒険者や商人風の人々のグループが疎らに点在する。


 目の色、髪の色、肌の色、着ている服、装飾品、背丈や顔立ち、佇まい――――何から何まですべて違う。みんながみんな、一体どんな道をたどって来たのか。すべてが未知だ。それを考えるだけで何だかワクワクする。



「止まってねぇでさっさと行こうぜ!」



 わたしが目をきらきらと輝かせてキョロキョロ周りを見ていると、いつの間にかガジェドさんと共に大分前まで進んでいたボルドさんからそう声が掛かった。



「はーい!」



 返事をしたわたしは駆け足で二人の下へと向かった――――

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