森暮らしの錬金術師、外の世界で無双する
卵崖御飯
プロローグ
わたしの一番古い記憶――――それは大樹の内側をくり抜いて造られた不思議な家の中、お婆ちゃんと一緒に釜を混ぜている光景だった。
『うわぁ!おほしさまがぐるぐるきらきらしててすっごくきれい―――うわっ!?』
無邪気に目を輝かせて釜をのぞき込む少女。あまりに前のめりな姿勢を取るものだから危うく釜の中へと落ちかけた。咄嗟にお婆ちゃんが少女を抱きすくめることで事なきを得たが――――
『ほれほれ、そんなに覗き込んだら危ないでしょう!無理して中を覗き込もうとしないこと。守れない子は錬金術のお勉強はもうお終い』
『ごめんなさい、おばあちゃん……』
言うまでも無く叱られて、しょんぼりと俯く少女。
その頭に手を置き、ポンポン軽く叩き、優しく撫でるお婆ちゃんの温もりは今でも不思議と覚えている。
あの頃は何故だか錬金術の勉強が楽しくて楽しくて仕方がなかった。別に今は嫌いとかそういう訳ではない。だけど、幼い頃に感じたときめきがまるでないのだ。
そういう言い方をすると何だか年寄り臭いかもだけど、まだまだわたしは16歳。成人まで2年もの猶予がある若人である。普通に若い。
何故、鬱屈とした日々が続いているのか――――理由は自分自身がよくわかっている。
幼い頃は知れば知るほど何だかわたしの中の世界が広がる気がした。周りに溢れる未知という名の神秘的な存在がわたしをわくわくさせて止まなかった。
たとえ、それがどんなに些細で小さなことでも変わらなかった。だけど今は何をしたって既知と化した。
薬草の調合から魔法薬の錬成、料理や洗濯など家事を効率化してみたり、思い切って野営道具を造っては森の中を遠征したり、ときには魔物や動植物との命懸けの戦いを繰り広げたりした。そして戦利品で色々試したりもした。
それら以外にもいろいろと――――。
でも気が付けば森の中で出来ることもほとんどやり尽くしてしまった――――と言ったら傲慢だけど、事実、苦行とか非生産的な行いを除けばほぼ無いと言ってもいいはず。少なくとも、わたしだけでは最早発展も何も無いだろう。
そう――――無いに等しい微々たる変化を追い求める毎日に嫌気が刺してきたのだ。同じことの繰り返し。有体に言ってつまんない。退屈だ。
森はいろいろな動植物や不思議な鉱物で満ち溢れている。これらを求めて人々が往来してもおかしくないのに誰も来ない。お婆ちゃんが死んでから天涯孤独――――寂しくて寂しくて仕方がないのだ。
だから、そんなときは錬金術に名一杯取り掛かってそれを紛らわせようとする。だけど最近は取り掛かる度、お婆ちゃんとの暖かな日々を思い出して無性に寂しさが増して仕方がない。
最早、一人で居ること自体が辛いのかもしれない。
だからわたしは決意した。この森を出ようと――――お婆ちゃんが言っていたエインガルドの街々を巡ってみようと。
そこになら、わたしの知らない様々な未知が待ち構えているに違いない。そして面白可笑しな出会いがわたしを待っているのだと――――。
そう考えると何だか久しぶりにわくわく楽しくなってきた。今すぐ準備に取り掛からなくちゃ――――――。
――――こうして、後に『森の錬金術師』と呼ばれることとなる一人の少女の物語が幕を開けたのであった。
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