第14話 兆候

「おはよう」

「……おはよ」


 彩乃に挨拶されるも顔を合わせることが出来ず夢乃はぶっきらぼうに返した。


「あのねお姉ちゃん」

「なに」


 朝食を食べ終え、リビングには夢乃と彩乃だけになった。


 そして、彩乃が夢乃を呼び止めた。


 とても笑顔で幸せオーラが溢れていた。


 一方、夢乃は不機嫌不機嫌極まりない表情を浮かべていた。


 彩乃が次に発する言葉が予想できる今、夢乃は逃げ出したくてしょうがなかったのだ。


「昨日ね、幸哉くんに……告白されたんだ」

「……そう」


 昨日、夢乃が帰った後2人は公園に行き幸哉から告白したようだ。


 それも……夢乃が幸哉から告白された公園で。


「うん、今はお姉ちゃんたち付き合ってないんだしいいよね? あたしも幸哉くん好きだから付き合うことにしたんだ」


「そう」


「もう、あの時の幸哉くんかっこよかったな……」


「ごめん、体調悪いから部屋戻るね」


 夢乃はそう言い残すと部屋へ向かった。

 部屋に入り、扉を乱暴に閉めるとベットに倒れこんだ。


「……うっ、友達じゃなくて、彼女だって……。き、記憶のない幸哉に、言った方がっ……ふっ、よかったのかな……。なんで彩乃なの……。なんで彩乃と幸哉を会わせちゃったの……うっ、なんで」


 夢乃はリビングにいる彩乃に聞こえないように泣いた。

 夢乃が彩乃と幸哉を会わせたことにより2人は付き合いだした。


 夢乃はこう思った。


 "あたしが幸哉と彩乃の恋のキューピットをしてしまった"と。


 ──数日後。


 その日は、幸哉と彩乃のデートだ。


「幸哉くん、お待たせ。待った?」

「大丈夫だよ。今来たとこだよ」

「よかった……。行こう」

「うん」


 最寄り駅で待ち合わせした2人は電車とバスを乗り継ぎ遊園地へ向かった。


 そこは記憶喪失になる前、幸哉と夢乃が行った遊園地だ。


「着いたー!」

「わぁすごい! 何乗る?」

「えっと……あ、ジェットコースター乗ろっ!」

「うん」



 ───────

 ─────



「???も遊園地好きだよね?」


 遊園地のジェットコースターに並ぶ男女。


「うん、大好き!」


 男性の問いかけに女性は笑顔で答えた。


「幸哉、あたしは……好きだよ」


 そして、ゴンドラに乗り込んだ2人。


 ゴンドラが登りまもなく頂上に着く頃、女性が男性の手を握った。


「???」


「キャー!」


 男性は女性の名前を呼ぶも……ゴンドラが急降下し女性の叫び声にかき消された。



 ───────

 ────



「え……」

「どうしたの?」

「あのさ、彩乃ちゃんと遊園地来るの初めてだよね?」

「そうだよー! 幸哉くん急にどうしたの?」

「だよね」

「(え、じゃあさっきのはなんだったんだ。

 男は明らかに僕だ。さっきの女性は……?

 好きだって言ってた……付き合ってた? いや、まさか……)」


 僅かに思い出した記憶に幸哉は戸惑った。


 だが、肝心の女性の顔も名前も思い出せずにいた。


 遊園地に女性と来て"好き"と言ってもらったことしか思い出せずにいた。


 それでも、全く思い出せずにいた幸哉にとっては良い傾向だ。


 それから2人はいくつもの乗り物に乗った。


 記憶が一瞬戻ったのは最初のジェットコースターだけだった。



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