“現場”の兵士たちに迫る、色褪せない古き名作……「戦場(1949)」

 ――第二次大戦末期の西部戦線。米軍兵士たちはドイツ軍の反抗作戦であるバルジの戦いのため、ベルギーへ移動する。彼らを待ち受けていたのは、悪天候と寒さ、そしてドイツ軍の情け容赦ない攻撃であった。戦死していく仲間、包囲され補給無しでの戦いを強いられる彼らは、ただ生き延びるために戦いを続けていく――


 ウィリアム・A・ウェルマン監督作品、1949年製作のアメリカの戦争映画。この時期、1940年代は二度目の世界大戦の渦中にあり、戦争が終結し次の年代へとさしかかった時期に製作された作品であり、プロパガンダ色の強かった戦争中の戦争映画とは一味違う戦後間もない頃の視点から見た戦争映画となっている。


 映画はバルジの戦いと呼ばれた第二次大戦末期の激戦を描いている。戦争も終わりが見えてきて、兵士たちが無事に帰国できる希望を胸に抱いていた矢先の戦いと、それに巻き込まれた兵士たちの姿を克明に描いていてる。寒々しい、雪の広がる森の中で死に物狂いの反撃を行うドイツ軍を相手に、彼らは果敢に戦っていく。


 しかし、兵士たちは超人的なヒーローではない。敵弾に倒れ、負傷して後送されていく兵士もいれば、命を落としていく兵士もいる。長引く戦いに疲弊しながらも、生き延びるために銃を手にとって極寒の戦場に身をおく兵士たちの姿がありありと描写される。最前線に身を置く、現場の兵士たちに徹底して肉薄する今作は、非常に泥臭く、そしてリアリズムを以って描かれている。


 それと、兵士たちの生活描写も面白い。四六時中戦いに備えている兵士たちだが、彼らも人間であり、戦いの合間の生活があり、感情がある。補給が滞る中で出てきた暖かい飯に笑顔を見せたり、中々手に入らない卵をありがたがったり、ひたすら隠れる為の穴を掘ったり、かと思えば移動命令が出されて折角の労力が無駄になってうんざりな顔をしたり……と前線の兵士たちの描写が細かくて、戦争映画好きにはたまらない。


 また、バルジの戦いにおける米軍の立ち回りも克明に描写している。降伏勧告に来たドイツ軍に対して「ナッツ!(くそくらえ!)」と言い返して追い出すシーンや、補給が滞った現場の兵士たちへ大規模な物資投下が実施される下り等も再現されているし、WW2直後の映画だけあり実際に使われた装備品や戦車などの大道具もふんだんに使われているのも評価が高いだろう。実際のモノクロ映像も使われており、モノクロ映画である分スムーズに物語に融合している。


 兵士たちの大活躍が作戦を成功に導く……というカタルシスある結末を劇的に演出することなく、映画はあっさりと締め括られるが、却って現実的な描き方かもしれないだろう。「俺たちはこの戦場を生き延びた」というシンプルな物語が今目線で見ても色褪せてはいないし、伊達にアカデミー賞を受賞していない完成度の高い映画だ。

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