*麗しくも気まぐれな彼
艶を帯びた黒髪を背中まで伸ばし、いつも後ろで一つに束ねている。伸ばしている理由は特にない。
伸ばしてみたらことのほか好評で、切ろうとすると母親が残念がるので切るに切れないといったところだ。
特にマザコンという訳でもなく。哀しげな妻の顔を見たくない父親が断固、反対しているというのが主な理由だ。
切ってしまえばそれにも慣れるというものであるが、そこまでして切りたい訳ではない。
漆黒の瞳は切れ長で、軽い乱視が潤んでいるように見えているのか愁いを帯びた美少年よろしく、女子生徒には密かにアイドル視されていた。
充分に魅力的な容姿は、性別を問わず見る者を魅了する。
密かに という部分にはもちろん、理由があることはご明察の通り。大々的な応援が出来ない理由を彼が有しているためである。
自由人──と言ってしまえば、それで済むかもしれない。
けれど、その頭の良さが災いして周囲を巻き込む騒動を引き起こす事がある。質が悪いのは、当人がそれに悪気がまったくないという事だ。
もっと質が悪いのは、巻き込まれた人間は最後に嫌な気分が吹き飛ぶかもしくは、苦情も言えない程の恐怖を味わうかのいずれかになる。
常に冷静で友達には優しく、女生徒には紳士的に接し、どこにも悪いところが見つからない。
なのに、彼はやはり「残念な天才」とささやかれるほどに高い頭脳を無駄遣いしていると言わざるを得ない──
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