第6話 僕、実はストーカーだったみたいです
「今日、一緒に帰らない?」翌日、僕は思い切って言った。その女の子は僕が急に声をかけたことに驚いているみたいだった。
「あの、英語の授業で一緒の……」と僕が言うと、
「うん、知ってるよ。」と彼女が言った。
僕たちは一緒に歩いた。
英語の先生の話で盛り上がった。小太りで、一分に一回、FUCK!と叫ぶ、アメリカ人の先生だ。なんとなくいい雰囲気になって、話が一段落したところで、彼女はこう言った。
「ねえ。どこまで一緒かな。」
「どこまで?」
「そう。つまり、目的地のこと。家どっちなの?私、ちょっと途中で買い物したいんだけど」
目的地。そう。彼女はこんな言葉を使った。そこで僕は裕子さんの言葉を思い出した。
不覚にも、思い出してしまった。
「僕の目的地は、あなただよ。僕は君がいるところへ行きたいんだ。」
僕はなぜかどや顔で言った。
「え゛っ?」と彼女がすっとんきょうな声を上げる。僕の中でその声は、声史上最低の声だった。彼女も自分自身の声に驚いているみたいだった。
次の瞬間、彼女は「ちょっとごめん」といって踵を返し、逃げるように速足でどこかへ消えた。僕は追いかけようと思ったが、やめた。まだ友達とすらいえない僕がここで追いかけたら、ストーカーになってしまう。
☆
いま僕は、友達どころか知り合いですらない人の後をつけている。ストーカーだ。
「いいえ、僕の目的地はあなたです。」
僕がそう言ってしまうと、真司さんはしばらく絶句していた。僕は必死にこの場を取り繕う方法を考えていたが、どうやら彼は、僕のことを気持ち悪がっているわけではなさそうだった。ただただ驚いた様子で、目を見開いていた。
「それなら……君、もうしばらく俺についてきてくれるか。」
今度は僕が絶句した。あんな危ない発言をした男に、ついてきてと言うなんて。
しかしそれからも真司さんが僕に対してフレンドリーになるということはなく、僕たちは黙って国道沿いを歩いた。30分ほど歩くと、ホームセンターが見えてきた。彼はそこに入った。店内に入ると、彼は迷わずキャンプコーナーにいった。キャンプする人のようにはとても見えなかったが、僕は静かに彼の買い物が終わるのを待った。
キャンプセットは僕が持たされた。彼が僕についてこいと言った理由がわかった気がした。彼の両手が先ほどの買い物でふさがっていたからだ。
ここから長いぞ。と彼は言った。
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