吾輩、出張を終えて帰宅
新婚早々すみませんねぇ、なんて100%思っとらんだろうってさすがの吾輩にもわかるようなにやけ面で、その阿呆はそう言い放ち、そのムカつく顔のまま、頭を下げた。前回来たヤツの頭は完全につるっつるだったが、今回はフッサフサである。だからどうということもないわけだが。
「いやぁ、一度前例を作ってしまうと駄目ですねぇ」
などと言いながら、持参した水筒から茶を注ぎ、あろうことかそれを「魔王さん飲みます?」なんて勧めて来た。
フツーそこで「じゃあいただこうかな?」ってなると思うか? ここ、吾輩のホーム中のホーム、本当の意味での
って、あぁ、飲むのか、自分で。成る程、毒じゃありませんよってね。いや、だとしても飲まんけどな?
前例がどうこうというのなら、そもそも前回あのハゲをアポなしで通したのがもう間違いなわけである。だからホラ、こうしてまたも、ホイホイと天界のお忍びの阿呆がノコノコとやって来てしまったのだ。忍べ! お前ら!
いやまぁ要するに、またも、というやつなのだった。
まぁーた、やっちゃった、と。
まぁーた、レベルMAXでコッチに転生させちゃった、と。
ごめんね、尻拭いシクヨロ! と。
ふっざけんなよ、お前達!
そんでどうせアレだろ?
レベルMAXだとかって焚きつけておいて、そう大したことないんだろ?
前回でもう懲りたわ、馬鹿者が。
しかしこちらも前例を作ってしまったわけだ。『うっかり転生者』を捕まえてこいつらに引き渡してやる、という。
そんなわけで吾輩は渋々そいつを取っ捕まえに行くことになった。それが一週間ほど前のことである。
いや、少々言い訳をさせてもらえば、だな。転生者の方はあっさり見つけたからな? だって吾輩、千里眼とか標準装備だしな? ただ、先生……じゃなかったイルヴァたん(何でかこう呼べと言われたのだ)のお土産リクエストの量が尋常じゃなかったんだよなぁ。あれ絶対エキドナと結託してるだろ。
――で。
吾輩は膨大な量のお土産を抱えて帰宅した。すると、だな。ベッドの上にいるわけだ。
見慣れない生き物が。
「ぽ」
「――え? 誰?」
この部屋は元々吾輩の寝室だったが、結婚を機に少々増築し、夫婦の部屋ということになっている。何せ元が鉄壁中の鉄壁でお馴染みの我が寝室であるわけだから、部外者が入り込むことなどまず不可能なのである。
にもかかわらず。
えぇと、どちらさん?
「ぽぽぷぱ」
「えぇ? 何語?」
大きさはまぁイルヴァたんの約10分の1といったところか、真っ白でまん丸の毛玉である。目を凝らしてみると、呼吸でもしているのか毛玉の一部がそよそよとなびいている。先程の鳴き声(?)もその辺りから聞こえてきた。
「ぽぱぷぷ、ぱぷ。ぴぷぱぺぺ」
「えぇ――……? もう、何~? ――ちょ、ちょっとエキドナ? あぁ、お前か。いまそこにエキドナいる? 代わってくれ」
思わず内線かけたわ。
最初に出たのは天界から出向中の例の女だった。エキドナと代わるように言うと、天界に戻してくれだの何だのぶつぶつと文句を言って来たが、いまはそんなの無視である。
「はい、わたくしです。お帰りなさいませ」
「うむ。いや、それは良いとして」
「お土産はすべて見つけられましたか?」
「もちろんだ。吾輩に抜かりなど――じゃなくて! ちょっとそれは置いといて。寝室に何か知らないヤツがいるんだが」
「あぁ――……、見つけちゃいました?」
「見つけちゃいました? じゃない! 目に入るに決まっておるだろ! ベッドの上を占領してるんだぞ?」
「おや、ベッドの上にいたのですか。ということは、やはり……」
「何だ、やはり、とは」
エキドナはそこで「はぁ」とため息をついた。
何だ? 知ってるのか?
「えぇとですね、魔王様、ショックを受けずに聞いてくださいね」
「何だその前振り」
「こちらとしても確証があるわけではないんです。ただ、諸々の情報を総合して導き出された結論、と言いますか」
「回りくどいな。何だ。その結論とやらを早く言え」
急かすと、エキドナはもう一度「はぁ」とため息をついた。
何? こいつがこんなにため息つくのって、一枚の書類に三ヶ所くらいの不備があった時くらいだぞ? あれ? また判子の押し忘れとかあった? それとも記入漏れ? 誤字? すまんすまん、それ訂正印でイケるヤツ?
――っていやいや! 話の流れ的にそんなわけがあるか!
「たぶん、そちらは王妃様ではないか、と」
「……は?」
「ですから、そちらの真っ白毛玉ちゃん、魔王様の奥方様じゃないかと」
ちらりと白毛玉を見ると、そいつは、ベッドの上をコロコロと転がっている。
「……え? あれがイルヴァたん?」
「……え? 魔王様、そうやって呼んでるんですか?」
「――!!! い、いや、妃がそう呼べと……」
「いやいや、良いんですよ、別に。そういうのは新婚時代の特権ていうか、後の黒歴史というか、まぁそんなところですから」
「おい、黒歴史って何だ!」
「とりあえず、そちらの白毛玉は9割9分、『イルヴァたん』様で間違いないかと……フフッ」
「おのれエキドナ」
完全に馬鹿にしとるだろ、お前。
吾輩だって人前では呼ばんわ。この部屋だけとか、そういうルールだわ。
しかし。
「エキドナよ。さっき諸々の情報を総合して、と言ったな?」
「はい」
「ちょっとその辺を教えてくれ」
「かしこまりました。では、とりあえずそちらに参ります」
「うむ、頼む」
受話器を置いて、イルヴァたん(?)の元へ戻る。恐る恐る触れてみると、ほんのりと温かいのだが、意外にもその毛は硬めだった。
これはもふもふなのだろうか。
もふるには少々硬めな気がするが。
しかし、とにかくイルヴァたんは毛足の長い生き物が好きなのである。そう考えればまぁ確かにこれは彼女なのかもしれない。
「ぽぽぽぽ!!!!」
「――む? すまんすまん。勝手に触って悪かった」
「ぽぷ!」
「そう怒らんでも……。参った」
まず言葉が全然わからんというのが当面の問題のようだ。
白毛玉はふるふると震えながら、吾輩の膝の上に飛び乗り、ぴょんぴょんと跳び跳ねている。この生き物のどこにそんな筋肉があってこの動きが出来るのか皆目見当もつかんが、まぁ、そこは良い。
問題はこの動きが何を表しているのか、ということである。怒ってるor笑ってる?
「失礼します」
「おう、すまんな」
エキドナが、ぬるり、と顔を出す。そして、吾輩の膝上で跳び跳ねる白毛玉を見て、ニヤッと笑った。
「さすが魔王様。もうそんなに仲良くなられて」
「これは仲が良いという状態なのか?」
「さぁ?」
「お前もわからんのではないか!」
「成る程、いつも王妃様とはそのようにじゃれ合っておられるんですね。ウフフ」
「おのれエキドナ!」
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