理不尽な選択肢は嫌いです

m-kawa

第1話 バカなツレが相手の場合

「一生童貞でいるのと全身の毛がハゲるのとどっちか選べって言われたらどっちを選ぶ?」


「はぁ?」


 いきなりのわけのわからん問いかけに、反射的に「何言ってんだコイツ」という意味を含んだ声が漏れてしまった。


「いや例えばの話だよ、例えば」


「例えにしてもなんだよその二択。どっちも選びたくねぇに決まってんだろ」


 漫画を読む手を止めて相手の表情を確認してみるが、わりと真面目な雰囲気だ。いや本人は真面目なつもりなんだろうが、俺にとってはどう答えていいかわからない問いかけとも言える。


「そこをなんとか、二択しか選べないと仮定してだよ」


 学校帰りにいつものようにツレの秋月あきつきんちで暇をつぶしていただけなんだが、まぁこれもコイツなりの暇のつぶし方だろう。


「うーん、そうだなぁ……」


 とはいえだ。俺自身はこういった例え話はあんまり好きじゃないんだよなぁ。なんていうかさ、どっちも選びたくねーじゃん? というわけで俺の答えはこれしかないわけだ。


「お前がそんな問いかけをできないように口をふさぐ」


 ビシッと秋月を指さしてから、親指で首をかっ切る真似をしてやると。


「――はぁ!?」


 なんとも面白い反応が返ってきた。


「例え話出しただけでなんでオレがそんな目に!? っつーか二択って言ったじゃねーか! 選択肢増やすんじゃねぇよ!」


「いやいや、わかってねぇな」


 俺は読んでいた漫画を完全に横に置いて、秋月へと向き直る。


「な、なんだよ」


「そんな理不尽な選択肢はどっちも選びたくねぇのはわかるだろ?」


「……いやまぁ、……そりゃそうだけど」


「ということはだ。実際にそういう状況になったら、どっちも選ばなくて済むように頭をフル回転させるはずだ。……ほら、よくラノベとかであるだろ? 二人を人質に取られてどっちかだけ助けてやる的なシチュエーション。主人公ならどうにかして両方助けたいと思うだろ?」


「……まぁそうだな」


 俺の勢いに乗せられているのか、秋月が納得したように頷いている。


「というわけでお前の口をふさぐ」


「――なんでだよっ!? 意味わかんねぇし!」


 秋月のツッコミに、俺は肩をすくめるしかない。


「だから言っただろ」


「何をだよ!?」


「どっちも選ばなくて済むように考えるって」


「……いや、だからって、ただの例え話じゃん?」


「例え話にしても、それって二択になってねーだろ。どうしても二択にしたいんなら、本当にそれしか選べない状況に追い込んでからにしろよ」


「なんだよそれ」


「さっきのラノベの話でも出てただろ。両方助けるって選択肢が。……まぁ逆に失敗して二人とも助けられないって結果になる可能性もあるわけだが。だから他の選択肢を選べない状況に持って行ってからにしろって話だよ」


 俺の言葉に両腕を組んで考え込む秋月。暇つぶしに軽く話を振っただけなのに、コイツにとったら逆に理不尽にさらされてる感じなんだろうか。


「うーん……。思いつかん」


 一通り唸った後に結局ギブアップかい。


「例えばどんなのよ?」


 んで俺に聞いてくるんかい。


「あー、そうだなぁ……。童貞とハゲだろ……?」


 と言ってもどっちかしか選べない状況ってどんなだよ。自分で言っておきながらちょっと無理じゃねぇかという思いが大きくなってくる。……が、まぁ自分で言い出したことだし、多少無理やりでも状況を作るしかねぇな。


「例えばだ。時限性のギロチンか何かがチ○コに仕掛けられたとして、それを解除するには脱毛剤プールに飛び込むしかないとかいう状況はどうだ」


「なんじゃそりゃ!?」


 俺の理不尽な状況に秋月が盛大にツッコミを入れてくる。うん、俺も自分でありえんと思うけど、これくらいの状況じゃねぇとどっちも回避する方法が簡単に浮かぶよな?


「つーかただの童貞だったのに、悪い方にレベルアップしてんじゃねぇか!?」


「わりー、ただの童貞になるって状況が浮かばなかったんだわ。まぁそこはいいじゃねぇか」


「いやまぁ……、確かにそれならきっちり二択だわな」


「そうだろ? そこまで状況を追い込んでこその二択なわけよ。といっても、実際にそこまで追い込まれてもやっぱり両方回避できる方法は考えるわけだが」


「そう言うと思ったよ!?」


「だけど時限式ギロチンが残り十秒とかだったらほぼ二択も同然だろ」


「……まぁ、オレが言い出した二択からはちょっと離れたが」


 渋りつつも納得しようとした秋月ではあるが、ようやく本題に入れるとばかりにその表情がにやりとしたものに変化する。


「――で、結局お前はどっちを選ぶんだ?」


「はぁ……」


 秋月の問いかけに、俺は再び大きなため息をつくと。


「……なんだよ」


「だからお前の口をふさぐって言ってんだろ!」


 相手の口をふさぐべく、俺は秋月へと飛び掛かる。


「二択になったって言っただろうが……!!」


 ……が、秋月も慣れたものだ。抵抗しながらもしっかりとツッコミを入れるのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る