第43話 一番もどかしいのは
翌日木曜は、部活がオフの日だった。帰り道は一人だった。木曜は反対に茜が部活がある日だ。最近一人で帰ることが多くなった。他の生徒は帰り道は部活仲間と帰る人が多く見られるが、鈴の部活仲間は一緒に帰りやすい人がいない。先輩は無理だし、同級生は香と隼だけだ。香は女子だが、未だに取っ付き難い部分があるような気がしていた。彼女は自分よりも遥かに真面目で色々できる。話していると、自分が劣っているような気がしてならない。
「あっ神江じゃん」
「何だ、隼か。てか、鈴でいいよ」
「そう?いやなんかさ神江って発音、俺好きなんだよね」
偶然出会った隼と最寄り駅まで一緒に帰る流れとなった。隼と二人で話すことといえば、今は恋バナしかないのだが。どちらかと言うと鈴よりも隼の方がそういう類の話は好きなようだ。
「で、神江。あれからどうなった?もう学園祭終わってから一週間くらい経ったけど」
「特に何も変わりな・・・・・・ってか元から何も無いんだってば」
「本当にそうなの?そう本人が言ってたの?」
「だから、自殺行為だから聞いてません」
「ええ勿体ないよ神江。聞いた方が良いって。先輩あれからまたじわじわ人気出てるしさ」
「頑張って聞いてさ、本当に私の思った通りだったらどうすればいいの?何か私振られたみたいな感じになるじゃん、振られてないけど」
「思った通りだったらそれはそれで良いじゃん。神江は別に先輩に興味無いんだしさ。Win-Winでしょ?」
何がWin-Winだ、と思い隼のことを睨んでやった。私ばかり聞かれるなんて不公平だ。隼にも聞いてやらなくちゃ。
「そういう隼はどうなの?進展したの?」
「進展も何もどうすれば良いのか分からないんだよ。何で校内の取材、お前と一緒なんだよ」
「悪かったね!」
「先輩と神江代わってくれよー。それを言うなら神江も前田と代わっちゃえば良いのにな、取材担当」
「無理に決まってるじゃん、担当分野があの二人は同じって元から決まってるんだから!私と隼がゲッターでしょ、四月から」
なぜ私はこんなにも焦っているのだろう。何に焦っているんだ?隼に言われてから、一方的に変に意識しだしてここの所二人で会話すらも交わしていないのだ。本当にあれが最近では最後の会話だった。
"やっぱ好きだなぁ、鈴ちゃん"
好きという言葉はいつの時代も恥ずかしい。自然と顔が熱くなる。
「意識してんだろ、神江も」
「元はと言えば隼が悪いんだよ、隼があんなこと言ってきたから」
「でも本当にあれ、告白だったら・・・・・・!ってちゃんと考えたことあるのか?一番可哀想でもどかしいのは先輩だろ」
沈黙が流れ、二人の足だけが前に進んだ。鈴にはもうよく分からなかった。自分の気持ちも。二人の横を見覚えのある横顔が通り過ぎていった。隼がすぐに気づき、反射的に名前を呼んだ。
「市来先輩」
何故か鈴はビクッとした。少し前を歩いていた市来はこちらを振り向いて驚いたような顔をした。おおっ、と言うと笑顔で手を軽く振って先に歩いていってしまった。
「ね、至って普通でしょ?」
そう鈴が得意げに言うと、隼は困ったような顔でぼそりとつぶやいた。
「俺達話してたこと、ずっと聞いてたのかな」
「・・・・・・い、いや名前出してないから。香の名前は出したけど先輩の名前出してないから、大丈夫じゃない?」
しかし、反応は想像以上に早く来た。家に帰宅して夕飯や入浴などいつも通りの行動が終わり、もう布団に入ろうかと思った時だ。スマホを開くとLINEが来ていた。
「市来先輩からだ」
メッセージは二件来ていた。鈴は何故かドキドキしながらトーク画面を開いた。
"いきなりごめんね"
"明日の朝八時に、部室に来れる?"
え、と鈴は思ったが、既読を既につけてしまった。返事は簡単なものだ。
"わかりました"
既読はすぐについて、返事もすぐに返ってきた。
"朝早くて本当ごめん"
その日、鈴はなかなか寝つくことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます