第2話 十日四時新聞部部室にて
男子二人、女子二人が何かを配っていた。見るからにその人達は先輩だった。鈴に向かって、一人の女子生徒がその何かを差し出してきた。
「ファンファーレ最新号です」
紙を手に取り、鈴は思わず顔を見上げる。少し自分よりも身長が高い先輩だった。―めちゃくちゃ可愛い。というより綺麗。先輩は鈴が見ていることに気づき、笑顔を見せた。何故か顔がかぁーっと熱くなった。
「新聞部だってさ」
「……え?」
茜も別の生徒から受け取ったようで、紙を手にしていた。改めてその紙に目を通す。それは生徒の校内新聞だった。「Fanfare!!」という名前が書かれていて、表のみ印刷されていた。トップ記事の見出しには、「新入生いらっしゃい」と丁寧なレタリングがあった。そして編集後記に小さく「部員募集中」と書いてあった。
「十日四時新聞部部室にて見学会実施……」
「へーえ、凄いね。新聞部なんてあるんだ」
関心したように言いながら、茜は新聞を読んでいる。鈴はここで決断してしまった。もう他の部活はどうでも良かった。ここだったら、文章をたくさん書ける。きっと楽しくなる。あんなに綺麗な先輩と一緒に活動ができる。
「私、新聞部に入る!もう決めた!」
「え?まじで?……てか新聞部ってどんな部活?」
翌日。帰りのホームルームが終わったのは三時半だった。今日から授業開始で、みっちり六時間は意外と気が疲れてしまった。この後は皆それぞれ部活見学に行くのだろう。新聞部に見学だけでも行く人は居ないだろうか。鈴は聞き耳を立てながら帰りの支度を終わらせた。殆どの人が運動部へ、文化部の人は軽音や吹奏楽へ行くような雰囲気だった。そんな中、茜は机に突っ伏していた。鈴は茜の机の前の椅子に座り尋ねた。
「茜は今日ダンス部見学に行くんでしょ?」
「……うん……そうだよぉ」
「眠いの?」
「うん……何か久々に六時間授業やったら疲れちゃってさ。先生は全然慣れないし……独特過ぎだし。後でね、隣のクラスの子と一緒にダンス部見に行くことになってるの。その子中学同じでさ、ダンス見に行くって言ってたから」
よくよく考えてみたら鈴の他に中学が同じである同級生は一人も居なかった。先輩にどうやら居るらしいが、お互い知らない関係だ。茜は体を起こして、ぐんと伸びをした。
「鈴は新聞部行くんしょー。頑張ってねん」
「うん……あ!もう五十分じゃん!茜も早く行かないと見学会始まっちゃうよ。じゃあ、また明日ね!」
「へーい、バイバーイ」
鈴は少し重たいカバンを肩にかけて、教室を後にした。当たり前だが、校内図はまだ頭に入っていない。一年生の階は三階だった。どうやら新聞部の部室は二階にあるらしい。二階は文化部の部室が多いようではあったが、同時に二年生の教室もあることから少しがやがやとしていた。
「ここか」
新聞部、という名前が書かれている部室はすぐに見つかった。部室と言っても普通の教室より少し狭いくらいで結構広いような気がした。今の時刻は三時五十五分。四時まで後五分ほどあるが、鈴の他に一年生が来る様子は無かった。微かに吹奏楽の楽器を演奏する音楽が聞こえてきて、どこも見学会が始まっていることが分かる。鈴は新聞部部室の前に立ってしばらく待っていることにした。
「部室に誰も居ないのかな」
「……っすね、先輩」
部室の中から男子生徒の声が聞こえた。鈴はドアに耳をそばだてて中の話し声を盗み聞きした。部員は何人か中に居る。昨日の放課後、新聞を配っていた人達だろうか。
「栞先輩の作戦のお陰で部員が増えたら、私達はもう嬉しい以外の何の言葉もありませんよ」
今度はのんびりとした口調の女子生徒の声だ。また別の男子生徒の声がした。ハキハキとしている。
「しかし入部試験は例年通り行うからな」
「ええーっ?!もうここの部活なかなかやばいんだから、新入生は皆歓迎してあげなきゃ、嵯峨さん」
「俺達がここに居るのは、布良先輩方のお陰なんだぞ。新聞部をなめて入部されたら困るのは俺達だ。滝川、お前だってよく分かっているだろう」
ハキハキとした男子生徒の声の後に続いた声は、また別の声だった。アナウンサーのような綺麗な声だ。一体部室には何人居るのだろう。
「嵯峨くん達の代はちょっと落としすぎた感じはあったのよね。だってあの時は何故か新聞部人気だったじゃない。入部希望を届けてくれた生徒が十二人。うち今部員として残ってるのは三人」
入部希望を届けた人数が十二人で、部員が三人ってどういう事だ?落とす落とされないなどそんなものが新聞部に存在するのか?原因不明の汗が背中を伝い始めた。
盗み聞きに夢中で人が近づいていることに気づいていなかった。突然背後に現れたものだから、鈴は思わず声を上げて驚きそうになった。一年の女子生徒だった。ショートカットの髪型で、身体は筋肉質に見えたので勝手に運動部の人だと鈴は悟った。その子は鈴に尋ねてきた。
「……貴方も新聞部の見学に来たの?」
「え?う、うん、そうなの。貴方も?」
「そうだよ、私も。まだ見学会は始まっていないの?もう四時は過ぎてるけど」
「な、何か入りにくくて」
「じゃあ一緒に中に入ろうよ」
鈴が答える前に、その生徒は部室のドアノブを回して開けてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます