第5話 恥ずかしくて言えなかった

1年生の時、あんなに意気投合して授業の休み時間に笑い合ってたのに

2年生になりクラスも別々になってしまい、そんなある日、彼女の居る

教室の前を通り掛かり“裕子さんが居る”と思った途端、顔が真っ赤に

なりポーッとほてり出し熱くなって、慌てて急いで駆け抜けて行った~


そんな場面が昨日の事のように甦った。


一緒に廊下を歩いてた級友が「おい!どうした?顔が真っ赤になって」

と驚いて尋ねてきた「お前、好きな彼女が居るんだろ?そうだろ~?」

ニヤニヤ笑いながら冷やかされて、とても恥ずかしい思いだった。


出来れば本当はその事も彼女に言いたかったんだけど・・・

「裕子さん、僕はそれほど裕子さんの事が好きだったんだよ!」って。

でもとてもそれだけは恥ずかしくて言えなかった。


1年生の時はあんなに平気で話せたのに、初めて人を心から好きになった

気持ちって、こんなに切ないものなのかと苦悩してたあの頃の自分の姿を

思い出していた。


「小川君、また考え事してるよ」と彼女が沈黙の時間を破ってくれた。


「ごめん、ごめん、懐かしかったあの頃の色んな場面が浮かんできて」

と、取り敢えずは慌てて誤魔化した。


「そうよね、早いもんだわ、あっという間、40年なんて」彼女は言った。


初めて彼女と一緒のクラスになって可愛い子だなあって思った時、誰かが

「裕子ってさ、小学6年の時からトオルって奴と交際してたんだって」と

話をしていて、それが僕には大変なショックだった。


小学6年?、まさかウソだろ?と初心な僕にはとても信じられなかった。


たぶんトオルという奴が勝手に惚れ込んでデマの噂を自分で流してたんだ

ろうって、そう自分に言い聞かせていたっけ。


大体、裕子さんはそんな“おませ”で派手な遊びする様な子じゃ無いし!

だけど美人顔だから他の女子より目立って際立っていたけど。


僕にはとても眩しく輝いて見えた麗しのマドンナだったんだ。


だって今の時代じゃあるまいし、小学6年がどうやって交際するっていう

のだろう?可笑し過ぎるデマだった事を “からかわれてたんだ”と今頃

になって、やっと気付いたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る