第2話 木漏れ日漏れる喫茶店

店内には心安らぐBGMが流れていた。あの曲はヘンデルのラルゴ。

聴いてると中学時代の懐かしさが甦り巡って来る・・・

図書館の窓のカーテンに揺らめく木漏れ日、

夕映えの校舎に響く下校チャイムの音、

笑い声弾んで駆けて行く女子生徒たち・・・

そんな当時の懐かしい学校や教室の場面が浮かんで来る。

僕は一気に中学生だった頃に戻った様なピュアな気持ちになった。


はにかみながら少し上目使いで彼女の顔をチラリと見ながら・・・

「裕子さん、あの頃と全然変わってないね」お世辞で無く正直そう思えた。

「うふふ、ありがとね、でも小川君だって、少しは髪が薄くなったけどね、

うん、あるある、昔の面影があるよ」そう言って彼女は笑っていた。

「やっぱりな、ハゲだと思ってるだろ?僕はすっかり爺さんだよ~」

「そんなあ、だって同い年でしょ、じゃあこっちも婆さんになるじゃない」

二人はくだらない会話に呆れ笑いをしていた。

しばらくするとコーヒーを持ってきた。

「いい香りね」彼女はそう言ってカップを手に取った。

「うん」僕も頷いて、ほぼ同時にカップを手に握った。

「あのさぁ~・・・」でも、僕は言い掛けた言葉を途中で止めた。

「なに?」って彼女が聞いてきた。

「うん、何でもない・・けど・・ね・・」バツが悪そうに僕が言うと

「なに?気になるじゃない、途中で話しを止めるとぉ~」と彼女は言った。

「あのね、卒業式が終わった後、クラスのみんなで喫茶店に行こうという

事になって、裕子さんも行ったよね?」

「そうだね、そんな事があったね、確か小川君来なかったよね」

「うん、あの頃、僕は馬鹿なクソ真面目人間で、幼稚で子供っぽくてさ、

何か喫茶店って友達同士で行った事も無いし、て言うか行く勇気も無くて

行けなかったんだよ」

「え~、ふふふ、ほんと子供だったんだあ」彼女は可笑しそうに笑いながら

「だってさあ、小川君だけだったよね、坊ちゃん刈り、ふふふ」

「まあね、自分ながら笑えるよな、そう言われるとね」僕は照れくさかった。

「あっ、それで、その日夕方にね、もう今頃みんな喫茶店から帰っただろう

な~って思った時間にさ、裕子さんの家に電話を掛けようとしてダイヤル

を回したんだよ」

「えっ?うんうん、で、何?電話鳴ったぁ?アタシ出なかったよね?」

彼女は少し驚いた表情を見せて僕の顔をじっと見ながら聞いてきた。

「何か用事あったの?話とかあったのかな?」って彼女は真顔で尋ねた。

「いやそれがね、でもね、何かさあ、僕ね勇気が無くてダイヤル回すのを

途中で止めたんだ、結局ね、電話は掛けれなかったんだよ・・・」

「なぁ~んだ、だってあの日、小川君から電話なんて来なかったでしょ、

でね、何か話があったのかなぁ?今なら聞いてもいい?聞かせてよ!」

「えっ、いや、卒業式が終わって、裕子さんともう会えないかもしれないと

思ったら寂しくなって、記念にでも、じゃないけど・・・」言葉が詰まって

しまって、僕はそれ以上は何も言えなかった。

「そっかぁ、まいっかぁ、つまんない~なんてね、ふふふ」彼女は笑った。

僕は心の中で自問自答し葛藤していた・・・。

(どうしたんだ?こんな機会なんてもう二度と来ないかもしれないのに・・

最後のチャンスだろ、あの時に彼女に言いたくても言えなかったことを、

どうして今言わないんだ・・・?)僕は自分がとても情けなかった。

「どしたの~、何か考え事してるぅ~?」

「ん?全然、何でも無いよ、大丈夫!へへへ・・」僕は笑って誤魔化した。

「そうお~、変なのぉ~、小川君たら~、うふふ」

たわいも無い、お互い不器用な言葉足らずの会話を交わして笑い合った。

彼女は無理して会話下手な僕に合わせてくれて笑ってくれてるのかなあ~と

思ったりもしたけど気にしない様に、否、気にしたら雰囲気が壊れてしまう

かもしれないので、それだけは避けようと僕は一生懸命にムードが白けない

ようにとばかり考えてしまい、かえって緊張して再び沈黙の時間が少し流れ

出した。

それを気遣ってか彼女の方から会話を切り出してきた。

「ねえ、ケーキ食べよう、いいでしょ」

「うん、いいよ、何がいいの?」

「え~っとね、このフルーツタルトが美味しそうだよ、でしょ?」

「分かった、じゃあそれにしようね」

二人で同じショートケーキを注文した。

たったそんな程度の事がなんだかとてもワクワクして嬉しかった。

また良い雰囲気で会話が出来る、そう思えた。

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