第7話:雪だるまな結果


「う~」


 カヤは管理人室でがたがたと震えていた。


『当日速達お任せください! 2時間以内に届けたかったら料金2倍! あなたのお側に裏はいたっちゃー』という、長い名前のカヤ御用達の配達業者に注文しておいたこたつをすぐに設置し、その中に顔以外潜り込ませているが、設置して間もないため、こたつの中はまだ寒い。


 あの自分の身を犠牲?にした雪だるまは、流石に体を芯よりもさらに奥の大事なものさえも凍えさせてしまったようで、体の震えが止まらなかった。


 水地も茜の部屋でカヤと同じようにぬくぬくと布団で温まっている頃だろう。


 何がとは言わないが、女子寮に男が恋人の部屋に入り浸っているって大丈夫なのか?とカヤの中で疑問が浮かんだ。

 カヤの知らない何かがあって、その何かが水地という何かが泊まっても大丈夫なように何か作用したのであろう。


 ……ダメだ。全然考えがまとまらない。


 何が、かは知らないが。と寒さの為かまとまらない思考に呆れる。


「……東京ではありえない、な。そもそも死にそうなほど凍えることが、ない」


 東京は切り裂くような風が寒いが、この田舎町はじわじわと内部から芯が冷えていくような寒さだった。視覚からくる寒さなのかは分からないが、体を動かしていれば体も温まるのだが、しばらくすると寒さが滲み寄ってくると言えばいいのか、雪に触れる場所から寒さが上ってくるような慣れない感覚に、カヤはこの寒さによく耐えられるなと住人に敬意を感じた。


 温まってきたこたつの中にもぞもぞと潜り込むと、遠赤外線の赤い光が体全体をほぐしながら温めてくれた。

 しばらくすると感覚がやっと戻ってきて顔をこたつから出す。

 こたつとこたつ外の温度差が激しい。

 体を起こし、余裕の笑みを1人で見せながら煙草に火をつけようとすると、視界にダンボールが映る。


「面倒だな……」


 必要最低限のカヤの荷物が入ったダンボールがまだ封を開けられてないままそこに置いてあった。


「……こう言う時こそあいつ、だよな」


 もそもそっとこたつ虫になりながら――こたつ虫とは、寒さのあまりこたつから出ず、こたつごと移動する人のことを言う――管理人室にある、寮の個室に繋がる内線電話を取って部屋番号を調べる。


「あいつの部屋番は……」



・・

・・・

・・・・



「失礼します」


 そんな声と共に管理人室のドアが開いて呼ばれた人が入ってきたのは、カヤが電話をかけてから数分後。


「おお、よく来たな、下僕一号」

「はい?……私、そうなんですか?」


 こたつ虫として動けなくなったカヤの視界に入り口が入らないため見えないが、声は明らかにメイだった。


「あ~! こたつ虫のお兄ちゃんだぁ!」

「……何で美冬がいる……」


 こたつをごそごそっと動かし器用に一回転させると、カヤの顔がドアのほうに向く。もぞもぞと中を通って反対側に向かってもよかったが、流石に恥ずかしい。

 ドアの前にはメイ以外にも数人の少女が立っていた。

 ここにきてから知り合った少女達が勢ぞろいしている。


「おあ! 茜も望もいるじゃねえか!」

「はい。私の部屋にいましたから」


 望はわかるが茜がメイの部屋にいることに、1人でぶるぶる震えている水地の姿が浮かび少し可哀想に思えた。


「あたしは? あたしは?」

「下僕二号」

「うん♪ 管理人さんの下僕♪」

「いや、それも困るし。水地はどうした?」

「寝てるよ♪」


 少し肌がつやっとしている茜を見て、まさか別の意味で寝ているんではないだろうか、と思いつつも頬をぽりっと掻く。


「呼んだ理由は何だよ」

「『望ちゃん』が怖いよぉ~」


 今まで喋らずむすっとしていた望の苛立ち溢れる刺々しい言葉がカヤに迫る。

 亀が甲羅の中に身を引っ込めるように、カヤはこたつの中に辛うじて出ていた顔を引っ込める。


「……おっさんが言うと、気持ち悪い!」

「望ちゃん、落ち着いて……」


 メイが望を落ち着かせようと声をかけるが、その時の「ちゃん」付けとカヤの「ちゃん」付けにはどこか違いを感じる。

 カヤも自分が言っておきながら望と同じ気分を味わい、「ちゃん」付けはやめようと思った。


「カヤちゃん、私に何か用ですか?」

「まあ、多いほうが手っ取り早い」


 カヤは急に真剣な表情を作り――こたつ虫だが――1人1人の顔を見る。

 その真剣な表情に、みんなが動きを止め、息を呑みカヤの言葉を待つ。


「……俺の、荷物整理を手伝ってくれ」



「……は?」


 一斉に、少女達が1つの単語を口にした。


「……絶対嫌だ」

「望ぃ~、頼むよ~婆ちゃんに頼まれてぇ~」

「ば、ばあちゃん?」


 カヤの泣きそうな形相とその言葉に全員の頭の中に祖母の顔が浮かぶ。


「……カヤちゃん、さっきからコロコロとキャラ変わってます」

「いや、あまりにも寒くてな。動けないしあまり思考も働かん。本当に手伝ってくれると助かる」


 一斉にため息をつくと少女達は顔を見合わせ、渋々とカヤの荷物整理を手伝い始める。


 そんな彼女等に、面倒な作業が減ったことに感謝するカヤであった。

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