#37 CROWS社

タケル……久しぶりね。直接会うのは何ヶ月振り?」


「そうだなぁ、俺が日本に戻ったときが最後だから9ヶ月振りくらいじゃないか?」


「そう……。あ、真美ごめんね。知ってるとは思うけど紹介するわね。彼はB.W.M.アメリカ支社にある防衛・セキリュティ部門機体制御システム部部長の石黒健。それで彼女は私の秘書の柳瀬真美。覚えておいてね」


「よろしく。健だ」


 健が真美に手を差し出した。


「よ、よろしくお願いします」


 真美が緊張しながらも手を伸ばし、震える手で握手した。


「カエデのやつ大変だろう?意外と強情だからな」


「ちょっと、変なこと吹き込まないで。それよりほら、早く行きましょうよ。車の中でもゆっくり話できるでしょ?」


 3人は立ち話をやめ、車に向かった。


「あの、石黒部長と社長ってどういう関係何ですか?タメ口ですけど」


 車に乗り込む前、真美が楓にこっそりと聞いてきた。楓は何だそんなことかと笑って答えた。


「幼馴染なの。彼と私」


「なるほど」


 真美が助手席に座り、健と楓は後部座席に座った。向かうはCROWS社の本社ビルだった。


「ところで、絵里は元気?」


「元気にしてるよ。カエデに会いたがってたぞ」


「最近会えてないからなぁ」


「……日本、大丈夫なのか?」


「どうだろ。昔とおんなじで治安はそんなよくない」


「戦争してるんだろ?」


「アメリカだってそうでしょ?そうね、日本海で小競り合いが続いてる。それに九州に直接被害が出てる」


「……そうか。昨日、S.A.T.Oが全面攻勢に出たと聞いた」


「らしいわね。まったく、争いごとばっかりで嫌になっちゃう」


「ああ、まったくだ。……CROWS社の最新発表とのことだが、一体なんだろうな。ていうか俺が行っていいところなのか?」


「色々な企業が招待されてるみたいだし、実際あなたも招待されてるんだからいいんじゃない?それと、一部情報筋によると、無人兵器についてらしいわ。なんでも、人の介在がほとんどないとか」


「そりゃ、すごい。あ、そういえば本社ビルは来客用の宿泊施設も備えているらしいぞ」


「あら、それはいいわね。もう疲れちゃった。歳かしら」


「ま、42だからな。それに時差ボケもあるんだろう。しっかり休むといい」


「心配ありがと。あとさらっと歳を言わないでよさらっと。恥ずかしい」


 数十分後、本社ビルに到着した。周りのビルに負けず劣らずそびえたつCROWS社のビルに圧倒されながらも3人は中に入った。


「ようこそ!我が社へ。ヒューマーの生みの親でいらっしゃる黒柳楓社長とその秘書の方、そして防衛・セキュリティ部門の責任者でいらっしゃる石黒健部長。お久しぶりですね」


 入ると、スーツを着た白人男性が楓たちを歓迎してくれた。何度も見たことのある顔。


「いやいや、責任者なんて偉い役職じゃありませんよ、俺は。ダニエル・ゲイツ社長。お久しぶりです」


「お呼びいただきありがとうございます。こっちに来るの大変だったんですよ?」


「ははは、本当にありがたいことだ。感謝しますよ。さあさあ、長旅で疲れてるでしょう。発表まで時間がありますから、どうぞそれまで休んでください。部屋は用意してあるので、時間になったら改めてお呼びします」


 金属探知機のゲートをくぐり、エレベーターに乗って来客用フロアに着く。事務的な印象のエントランスと違い、カーペットが敷かれていたり、洒落た壁紙が貼ってあったりと、ここはまるでホテルのような空間であった。


 3人はそれぞれ別れて部屋に入った。部屋の中は、それこそまさしくホテルの一室だった。ダブルベッドがありバスとトイレがあり、眺めこそ通りしか見えなかったが、それでもここが本社ビルであることを忘れさせるには十分すぎるものだった。


 おもてなしの国として負けてられないな、と経営者の顔をしながら楓は思った。

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