第2章 布石
反抗編
#26 収容所
シン・カトーは収容所の暗い集団部屋で横になっていた。
普段は横になれば疲れのあまりすぐに寝てしまうのに、今日はなかなか寝付けない。
ルソン島で捕虜になり、そのままここに連れてこられたからどのくらい経ったのだろう。収容所だと時の流れが狂っていく。最初は何日目かを数えていたが、途中でやめてしまった。
毎日の労働はきついもので、雑魚寝したところで体が完全に休まることなどなく、1つ疲れが取れては3つ疲れが溜まっていくばかりだ。
だが、明日でここでの生活は終わると看守である小太りの男が言っていた。どうやらほかの場所で捕まった捕虜が多く、加えてここがフィリピンの刑務所を流用したものだったため、中国本土にまとめて収監されるらしい。それを伝えた看守は一見優しげに見えるが、そんなはずはない。きっとそうやって心を許したところで相手を自らの傀儡とするのだろう。奴らのやることなんて高が知れている。決して信用してはいけない。
狭いスペースでなんとか寝返りを打つ。その動きを感じたのか、小さく英語で声をかけられた。
「寝れないのかい?えーと……カトー?」
この声は……恐らく看守だろう。わざわざ捕虜の名前を覚えてるということは、やはり親近感を持たせて油断させるためなのだろう。侮れない男だ。決して籠絡されてなるものか。
「あんたには関係ない」
「そうだな、私には関係ないな。関係ないが相談には乗れるぞ。伊達に歳をくってるわけじゃないからな」
看守は冗談めかして笑った。部屋に笑い声が響き渡る。悪魔め、寝ている人間がいるのに大声で笑っている。
「おっと、すまない。勝手に盛り上がってしまった。それで、どうなんだね。まぁ、辛いことの方が多いだろうが」
「言ったところで改善されるとは思えないし、どうせ明日別のところに移送されるんだ。そもそも言うつもりもない」
「そうか……そうだな。ま、気が向いたら話してくれないかな、私でよければね」
返事はしなかった。急に疲れが押し寄せてきて喋る気力が奪われたからだ。そして気づけば眠り込んでいた。
翌朝、この収容所にいた40人近い捕虜は別の施設へ移るために2台の護送車に乗り込んでいた。全員が乗り込んだ護送車が動き出し、なぜか出入口の手前で止まった。
なにか揉めていたらしく、護送車にあの小太りの看守が入ってきた。
「すまない。誰かがマイクロバスを寄越したみたいで入口が塞がってるんだ。もう少し待ってくれ」
外から、複数人が走る音が聞こえた。看守がドアの方を見て手で何かから身を守るような動きをした後倒れ込んだ。すぐにドアから黒い戦闘服に身を包んだフルフェイスの男が入ってきた。男が護送車の中を見渡し、こう言った。
「迎えに来たぞ。ルソン島から脱出する」
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