ジリエト商隊護衛(4)
隊商主キエルが出発を促してくる。それに応じて相棒もラウディに騎乗した。
「属性セネルとは豪勢だね?」
「えへへ、この子、買ったんじゃないんです。キグノが連れて来てくれたんで一緒に旅をしています」
「野生種ね。それはまた珍しい」
ほっつき歩いてただけじゃん。
「
みたいだな。よく分からん。
「英雄になびくっていうけど、リーエは英雄の器なの?」
「えー、剣一つ振れないのにそんなわけないです」
「だよねー」
ずけずけ言うな、双子。
先頭を走るスフィンウィーの横で俺も小走り。それに続くようにリーエを乗せたラウディがいる。
「あ! 積み荷のこと忘れてた」
おお、何か聞くの忘れてたぜ。妙なのが寄ってきたから。
「ん? キエルが何を商っているか知らないのかい?」
「はい。ギルドで指名依頼をいただいただけでしたので。ちょっと予想が付かなかったんです。メレスティまでって中途半端ですよね?」
「あらら、教えてあげなよ」
頼むぜ、筋肉親父。
「悪かった。俺が扱ってるのは金属、それも希少金属ってやつ」
「貴金属類ですか?」
「いや、合金とかに使う類だよ。技士ギルドの依頼でそいつを届けてるんだ」
どっちにせよ高価な代物だな。
「冶金とかに使う金属ですね?」
「そういうこと」
鉄の剣だって、一種類の鉄って金属でできているわけじゃない。鉄に色んな混ぜ物をして硬く粘りのある金属にしてから成形する。鉱石から金属を取り出したり、用途に応じた合金を作る過程を冶金っていうらしい。
「なんでメレスティまでかっていうと、俺が交易手形を持ってないからだ。国境を越える商いができないんだよ」
「はぁ、でもそういう交易は手形を持っている方に仕事が行くのでないですか?」
もっともな疑問だよな。
「もちろん金属交易大手商会だって扱ってる品目だ。でもそれは需要に即していないから足りなくなる」
「そうなんですか?」
メルクトゥーの金属交易は王国が管理してる。交易先の国からの要求に応える形で輸出量を決めてるみたいだ。
だが、発注する国だって国内全ての需要を把握しているわけじゃない。ましてや冶金に少量使うだけの希少金属なんて、こと細かに把握できるわけもない。
それだと冶金を行う技士は金材が足りなくて仕事ができない。仕方ないから、技士ギルドが注文をまとめて発注するわけだ。
技士ギルドが国が輸入した金材を割り当てて、足りない分を追加注文するにも大手商会はそんなに身軽に動いてはくれない。王国管理下の交易品なのだからなおさらだ。それじゃ困るってんでジリエト隊商みたいな小口業者に発注を掛けているらしい。
「手形の申請は通らないんですか?」
「渋るんだ。あまり乱発すると不正の温床になりかねない。目が届かなくなるって思っているんだよ」
「それで手形をお持ちでないキエルさんのような方を頼るのですね?」
やむにやまれずってやつだな。
「そう。メレスティにはホルツレインやフリギア、クナップバーデンの技士ギルドの出張所がある。そこへ注文の品物を届ければ、そこからは手形の要らない小口荷物として各地に送られていくって寸法だ」
「なんか裏側を見ているような気になります」
合法なんだろうな?
「王国は黙認してる。それを違法だって取り締まりだしたら、品物が回らなくなるってのは解ってるからだ。だから、あまり限度を超えた取扱量にならないよう出張所に監査を入れて管理しようとしてるんだ。まあ苦肉の策だな」
「なるほど。理解できました。国境の町メレスティまでっていう意味を」
王国の管理を大きく逸脱しないような仕組みを意図的に作り上げたってわけか。放置して密輸が増えるよりは遥かにマシって考え方だな。
「でも、リーエちゃんみたいな年頃の娘さんから冶金とかって言葉が出てくるとは思わなかったよ」
「父が個人交易商人でしたので。貴金属を含めた希少金属類を扱っていたんです。その中には冶金に使う金材類も入っていました」
俺も聞いたことあるもんな。
「おや、君の父親は商人だったのね?」
「ほう、同業者だったか。今はどちらに?」
「亡くなりました。生前はイーサルとメルクトゥーを行き来していましたが」
どうしてもそういう話になっちまうよな。
「亡くなった? まさか、シェラードさんか?」
「父をご存知ですか?」
「ご存じも何も、最近珍しい硬派な商人として有名だったんだ。その気になれば手広くやれたものを、自分のやり方を貫くために小さくまとめてる、金材の業界で噂になるような信頼の篤い素晴らしい商人だった。惜しい人を亡くしたもんだ」
親父さんは業界では有名人だったみたいだな。俺たちじゃそこまで分からなかったけど。
「そうか。リーエちゃんはあのシェラードさんの娘だったか。二人きりの家族だったって聞いてる。今は一人なんだろう? 業界からの恩返しを兼ねて、今後は贔屓にしたいところなんだけどどうだね?」
「キグノもいますし、ちょっとご縁があって西方へ向かう途中なんです。この依頼は都合が良かったんで受けさせていただいたので」
「残念だなぁ」
驚くよな。こんなところにも親父さんの遺産が転がってるとはね。人間の縁ってやつはなかなか面白いことをするもんだ。
相棒は笑って話せるようになったってのに、なんでお前らが泣いてるんだ、フィンと双子。湿っぽくなっただろ?
いい天気だから颯爽と行こうぜ。尻尾を振ってなぶんぶんぶんぶーんぶんぶん。
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