ステインガルドの危機(1)
花畑は気持ちの切り替えに効果的だったけど、そうのんびりもしていられない。ステインガルドに着くまでに
それで、また相棒を背に乗せてとことこと歩いてたんだが、そうもいかなくなった。おいおい、この匂いは何だってんだよ?
座り直して掴まれ、リーエ。
「なになに、どうしたの?」
きな臭いんだ。これは只事じゃない。
一度伏せると降りた相棒が、背中にまたがり直す。鼻でたてがみを示して掴まらせると走り始める。
「キグノ、どうして? え、この匂い……。煙も上がってる!」
ようやく匂いに気付いたか。目はリーエのほうが良いな。
「うそ! 村のほうよ! 急いで!」
しっかり掴まってろよ!
相棒の薄紫の髪だの、スカートだの、形振り構わずなびかせて一気に駆け抜けた。そしてステインガルドの入り口で呆然と佇む。
数ヶ所から細く煙が棚引き、炭になってる家もあれば壊されている家もある。何だよ、これ? 今度はこっちに盗賊団でも襲来したのかよ?
くっ、これか? 最悪のタイミングだぜ。
「キグノ?」
後ろから馬蹄の音が聞こえる。降りて逃げててくれ。
「あの人たち……、冒険者?」
違ったか。まさかこいつらが村を襲ったんじゃないだろ。
近付いてきたのはリーエの言う通り冒険者のようだな。五人が武装して馬に乗ってる。俺たちに気付くとそこで止まった。
「お前、村の子か? 魔獣はどこだ?」
魔獣だと?
「魔獣!? すみません、所用で長く村を空けていて、帰ってきたらこの有様なので驚いていたところなんです」
「なんだ、じゃあ役に立たんな。おい、行こうぜ」
言いたい放題だな。
「ああ、さっさと村に入って自分の家に閉じこもってろ。魔獣が来るぞ」
「優しいじゃねーか?」
「あん? だって、この子可愛いだろ? 感謝して欲しいじゃん」
構ってられん。誰か事情を説明してくれ。
そうしてると、村の奥からどやどやと男衆が駆けて来た。何とかやっと話が聞けそうじゃん。
「リーエ」
「伯父さん、これはどういうことなんですか?」
早く教えろ。
「しまったな。帰さないようウィスカにも伝言しとくべきだった。村は
「うそ……」
「残念ながら本当だ。まだ誰も命は落としていないが怪我人は多い。見ての通り、焼け出された者もいる。ここは危険なんだ」
こりゃ火系魔獣の仕業か。
例の冒険者は村長のスランディが対応している。事情を説明しているみたいだな。
その間に俺は柵の匂いを嗅ぐ。上手くないな。犬系魔獣が印を付けてやがる。すると群れで襲ってきてやがるな。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃない。だから積立金を崩して冒険者を呼んだ。討伐してもらわないといけない」
なるほどな。
「伯父さん、怪我人はどこに?」
「そうだ! 一番頑丈な村長の家に集めてある。頼めるか?」
「当然です」
相棒ならそう言うよな。
道すがらクローグが説明してくれた。
初めての襲撃がさっき聞いたように
ところがそれは状況を変えただけで、今度は夜に襲ってくるようになったと言う。素人の使う武器なんかは問題無いが、矢の攻撃は厄介だと思ったんだろうな。暗闇なら狙いは定まりにくいと。ずる賢い連中だぜ。
だから、暗くなる前に頑丈な家に集まるようにしてしのいでいたんだとさ。その間に討伐の冒険者が来てくれればいいと思って。で、間の悪いことに俺たちが帰って来ちまったって寸法か。
「リーエ!」
む、コストー。やられたか?
「コストー、その腕! 見せて!」
「何てこと無いよ」
そう言いつつ涙ぐんでんじゃないか。
相棒は反転リングを操作して袋を展開すると、中からロッドを取り出す。それほど高価でない短い物だがそれで十分だ。
コストーの腕に触れさせて
「申し訳ない、リーエ」
「モリックさんは無事で? レイデさんは?」
「大丈夫よ」
大人組は無事のようだな。
「避難しようとした時にパントスが逃げ遅れて、コストーが盾になって庇ったんだ。その時に噛み付かれてしまってね。僕が殴り付けたら放したけど、逃げるのが精一杯だった」
「……あまり深くなくて良かった」
リーエは安堵の息を吐いてる。
託児院はルドウ基金の財力もあって、かなり頑丈にできてる。非難場所としては村の中でも優秀な部類だろう。あそこに籠ればぎりぎりしのげるはずだ。
「もう陽が暮れちゃう。避難していて」
「あなたはどうするの、リーエ?」
「村長さんのとこに怪我人が居るようなんで、伯父さんと向かいます。気を付けて」
「君もな」
こいつは本格的にマズい。今からじゃ群れを探りに出る時間がない。反対側を探してる間に襲撃されたら相棒の身が危ないじゃんか? 面白くないけど、今夜のところは迎え撃つしかなさそうだぜ。
あの冒険者連中が撃退してくれりゃ一番だけど、場合によっては俺も動くか。リーエからはあまり離れられないけどな。
ともあれよくやった、コストー。ご褒美ぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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