シェルミーの横暴(1)
何もないステインガルドの村だが、実は一つだけ施設がある。
それはルドウ託児院。聞いた話じゃ、西方に本部があるルドウ基金ってとこが運営している施設らしい。
本来は孤児院だという話なんだが、頼めば幼児から十三、四歳の子供まで預かってくれる。それも格安でだ。
きちんと職員も二人いる。なので村の母親達は、農作業で忙しい時などに利用している。だが、あまり繁盛しているようには見えない。何せ小さい村だ。子供の絶対数が少ない。
それだけじゃなく、そこでは孤児も生活している。病気や事故で親を失った三人の子供を面倒見てるんだ。彼らはそこで暮らすとともに、預けられた子供の世話をする。生活を保障されている代わりに働き手でもあるわけだ。
ろくに収入もなさそうな施設なのに、三人は普通にゆとりある生活をしている。中隔地方全土にこんな施設が無数に有って、全体で採算を取っているから問題無いらしい。なんて資金力だ、ルドウ基金。
そのルドウ託児院は相棒の馴染みでもある。
交易商人の親父さんと旅暮らししていた頃の相棒は暇を持て余してた。馬車の中で俺と遊ぶのにも限界があるからな。そんな時は本が無聊を慰めてくれてたのさ。
シェラードは娘のことが分かっているから与えたのは物語じゃなく教本だった。小さい頃から俺に寄り掛かって読んでいた絵本が、色んな単語を憶えてからは教本に変わったわけさ。リーエはずっと勉強してたから、今じゃ人に教えるのも簡単じゃん。
何で託児院が十三、四の子供まで預かって成り立っているかっていえば、ここで勉強を教えてくれるから。普通はその年頃はもう家の手伝いのできる働き手。なのに金を払ってまで通わせる理由はそれしかない。
読み書きから計算まで基本的なことは全部教えてくれる。子供に学が付いて将来の為になるなら、親は生活にゆとりのある範囲で通わせたくもなるよな。
子供がそれなりに集まれば勉強させるのも職員二人じゃきつくなる。歳もばらばらだからな。そんな時にお役立ちなのが相棒なのさ。
リーエも託児院がやっていることはすごいって常々言っているし、手伝いたいと思ってるみたいだな。何よりそこの三人の子供達とは家族みたいに仲良しだ。
他の二人は五歳の雌のルッキと三歳の雄パントス。二人は姉弟で、まだ小さいから職員のモリックとレイデに読み書きを習ってる。
それで俺は勉強室の隅で寝そべって終わるのを待ってるのさ。
「コストー、ちゃんと集中しなさい。今は勉強のお時間!」
「あう、ごめんなさい、リーエ。ちょっと気になって……」
「何が気になるって言うの?」
そりゃ、膝の上に置いてる小箱の中身だよな。匂いがするから分かるぜ。
「見せて」
「その……、でも……」
「良いから」
止めとけ、相棒。
俺はそっと後ろから近付いていく。怒ってるリーエはコストーから箱を取り上げると何気なく開けた。
「あっ!」
「きゃ!」
仕方ないな。
箱から跳ね飛んだ奴を、俺はジャンプしてパクリとやった。
「あーっ! キグノ、食べちゃダメ!」
食ってないって、コストー。ほら、返すぜ。
「え? 舌の上に乗ってる!」
唾が付いたくらいは勘弁しろよ。
「良かった」
コストーが俺の舌から受け取ったのはトビネズミだ。こいつらはそこら中にいる。
主には畑にいて、飛び跳ねて麦の穂を抱えては引き下ろし、実を齧るんだ。要は農作物の害獣なんだが、大きな被害を出すほどは増えない。
昼は犬や狐、鼬とか、夜は猫の仲間の餌になる。つまり動物の世界じゃこいつは最下層にいるわけさ。だから人間も熱心には駆除しない。こいつらが餌になってくれるから、村の小型の家畜がそういう肉食獣に襲われないで済むからな。
それでも増えやすいから数は結構いる。コストーみたいな子供が捕まえて遊ぶくらいにはな。
畑でぴょんぴょんと跳ねる、
「もう! こんなの勉強室に持ち込んじゃダメでしょ!」
そう言ってやるな。狩りは雄の本能だぜ。
「でも、せっかく捕まえたんだから逃げちゃうと困るし……」
「許してあげなよ、リーエ。コストーみたいなのが勉強したって仕方ないんだからさ」
「どういう意味?」
間の悪いことに、こんな
クローグは、勉強もできりゃ治癒魔法士でもある姪が自慢の種だった。身内にいれば村ででかい顔ができるってもんだ。でもシェルミーにすれば、そりゃ面白くも何ともない。何かに付け、相棒にちょっかいを掛けていたのさ。
伯父の家を出たがったのは、半分はこのシェルミーの所為だって言ってもいいな。
険悪な空気になって小さいパントスが泣き出し、ルッキも涙ぐんでる。泣くなってぺろり。
お前は甘い味がするんだよぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます