姫と白騎士と二人の黒騎士

有原ハリアー

過去と現在と未来の騎士、集結!

 アルマ帝国が首都、リゲルの中心に在る皇城カメリアの広場。

 片膝を付いた状態で、動かない朱のリナリア。

 そこに、漆黒のリナリアが駆け付けた。


「ネーゼ陛下、返事をしてください、ネーゼ陛下!」


 漆黒のリナリアの主、ハーゲン・クロイツ少佐が必死に念話で呼びかけるも、応答は無い。


(もしや、気絶されているのか……!?)


 機体の損傷は、脚部に軽微なものが一つ。

 となると、朱のリナリアの搭乗士ドールマスターであるネーゼの身に、何かがあった……そういう思考に、絞られた。


(どのみち、このままでは……!

 俺が行くしかない……!)


 そう。

 謎の機体“デザイア・セカンド”に包囲されている状況で、機体をロクに操縦出来ないというのは、死と同義であった。

 いくらアルマ帝国内最高出力を誇るリナリア――しかもネーゼ専用に特別なカスタマイズを施された機体――であっても、素の装甲が薄いのでは意味は無い。

 そして全ての鋼鉄人形に共通の、「霊力を纏わせて物質――無論機体の装甲も含む――強度を上昇させる機能」も、搭乗士ドールマスターのネーゼが動けなくては、発揮できない。


 つまり“詰み”の状況であった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 ハーゲンは我を忘れ、朱のリナリアの前に立ち塞がった。


 かつて恋人であったネーゼを、今は届かぬ所にいるネーゼを、守る為に。


     *


 爆音が、あちこちで響いている。

 よく聞くとそれは、とても近くの場所で響いていた。


「ん……」


 ゆっくりと目を開くのは、ネーゼ・アルマ・ウェーバー。朱のリナリアの搭乗士ドールマスターであった。


「あ……貴方は……!」


 目の前に見えるのは、大盾をかざし、そして目には見えない障壁でもって、己を守る漆黒のリナリア。

 オンになりっぱなしの、機体の拡声機能で、ネーゼは我を忘れて叫んだ。


『ネーゼ様、お目ざめですか……!?

 自分は、いえ私は、ハーゲン・クロイツ少佐です!』

『ハーゲン……!』


 目の前に立ち塞がる漆黒のリナリアの搭乗士ドールマスターは、かつての恋人、ハーゲン・クロイツが操る機体であった。


     *


『ネーゼ様、この場は私が防ぎます!

 どうか、お逃げ下さい……!』

『馬鹿を言わないで……! “皇帝は率先して臣民の盾となるべし”…………ッ!?』

『ネーゼ様!?

 まさか、機体が!?』


 ネーゼが必死に機体を動かそうとするも、転倒を繰り返す。


『その脚部の損傷……!』


 そう。

 外見的には軽微であったが、内部フレームはガタガタになっていたのであった。


『ネーゼ様、早く……!』

『嫌です……! 皇帝としての務め、ここで放棄する訳には……!』

『相変わらずな、お方だ……! ぐぅっ!?』


 一発の砲弾が、漆黒のリナリアの障壁を震わせた。

 そのまま障壁は突破され、機体の姿勢が揺らぐ。


(私には……俺には、守れないというのか!?

 せっかく、こうして、邂逅出来たというのに……!

 このまま俺達は、二人とも死ぬというのか……!?)


 ハーゲンはこみ上げる無念と、それに伴う涙を隠さず、叫んだ。


『誰か……誰でもいいッ! ネーゼ様を、救ってくれ……ッ!』


 拡声機能を最大にした悲痛な叫びが、カメリア周辺に響き渡る。

 その時――



『わかった! やってやる、ハーゲン!』

『盟友である陛下を殺させるなんて、させませんわ!』

『オレをアルマガルム・アークエグゼとして信じてくれてんだ、やってやらあ!』

『任せてよ、父さん!』

『騎士様のお父さま、そしてわたくしのお母さま……! 今、助けます……!』



 五人の声が、応答してきたのであった。


 そして、ハーゲンとネーゼのリナリアの前に、


 一瞬遅れ、無数の砲弾が4機を包み込むように炸裂する。

 が――


「オレ達の霊力をバカにすんじゃねぇよ!」

「まったくもってその通りですね、アークエグゼ様!」

「ええ、騎士様!」


 ハーゲンとネーゼのリナリアには、余計な損傷は一つたりとも無かった。

 無論、新たなる2つの機体にも、傷一つ付かなかったのであった。


「父さんと陛下は、大丈夫そうですね。

 それじゃそろそろ、“ランフォ・ルーザ(ツヴァイ)”の皆様、お願いします!」

「応!」

「任されましたわ!」

「やってやるぜ!」


 新たなる漆黒のリナリア――ハーゲンのと一致するシルエット――が防御を引き受け、純白の機体――ランフォ・ルーザ(ツヴァイ)――が飛翔する。


 動揺を明らかにしたデザイア・セカンド数十機が散開し、ある機体は近接戦闘で、ある機体は遠距離の砲撃で、純白の騎士を撃ち墜とそうとする。が。


「早速、使わせてもらいますわよ!」

「おう、霊力はオレから出してやる!」


 兜の根本にある真紅の宝石から、銀色の光条レーザーが放たれた。


 、離れた位置のデザイア・セカンドを舐めとる。遅れて、爆発が連続した。


「こっちも持って行きな!」


 ランフォ・ルーザ(ツヴァイ)の機体そのものを操る男が、剣をスッと構える。

 次の瞬間、その先端からも、光条レーザーが放たれた。


「次!」


 チェーンソーの付いた腕を振るい、迫りくるデザイア・セカンド達数機。それを盾で容易くいなしつつ、機体の腹部を正確に貫くランフォ・ルーザ(ツヴァイ)。


「これで終わりか?」


 あっという間に、敵戦力の8割が消滅する。

 まだ数機が残存していたが、ヤケクソ気味に――漆黒のリナリア2機へ――突っ込んで行った。


「逃がすか!」


 ランフォ・ルーザ(ツヴァイ)は先回りし、特攻を阻止せんと光条レーザーを撃ち放つ。


「クソッ!」


 が、2、3機撃ち漏らした。


「大丈夫です、わたくし達もおりますゆえ」

「龍野さん達ばかりに、カッコは付けさせないよ!」


 漆黒のリナリアが、素早い斬撃で胸部を両断する。

 今度は1機も、逃がさなかった。


 この瞬間、カメリア宮殿を襲撃したデザイア・セカンドは、全滅したのであった。


     *


「遅れて申し訳ございません、ネーゼ様……いえ、ネーゼ殿下」


 ややあって機体から降りた、ランフォ・ルーザ(ツヴァイ)と漆黒のリナリア――リナリア・シュヴァルツリッター――の主達、


 須王龍野、

 ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア、

 ディノ――もとい、ディートリンデ・ヴォーヴェライト――、


 そして、


 ブレイバ・クロイツ、

 ブランシュ・アルマ・ウェーバー


 の五人。


大事だいじ、無いようですね」


 それに続いて、ハーゲンも五人の隣に並んだのであった。


 そして彼らは――アルマ帝国が守護神であるディノを除き――、一斉にネーゼの前にひざまずいたのであった。


「「我ら五人(と一柱)、帝国の危機に馳せ参じました!」」


 それを見たネーゼは、静かに勅命を下す。


「命令です。

 我らが帝国の危機、見事救い出してくださいませ」


「「はっ!」」


 かつてのネーゼの騎士恋人、ハーゲン・クロイツ。

 現在いまを生きる、須王龍野、ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア。

 帝国の未来の騎士となる、ブレイバ・クロイツ、ブランシュ・アルマ・ウェーバー。

 そして、過去も現在も、未来までも、アルマ帝国の守護神である、ディノ……いや、ディートリンデ・ヴォーヴェライト。


 彼らはここ、カメリア宮殿にて、集結したのであった。

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