第78話班決め
「そういや知ってるか?2週間後に決まったらしいぜ」
マルシェとルース、エルマーとジンの4人で食事を摂っていると唐突にルースが3人に言った。
「何が?」
「前言っただろ、1年全体の野外訓練ってやつ」
「ああ、あれか」
「それって、他のクラスとチームを組んで東の森を探索するんだっけ?」
「そうそう、そんで多分今日明日にでもチーム分けすんじゃねえかって話だ」
「へー、どうやって?」
マルシェが不思議そうな顔をする。
「そりゃ、教師が勝手にだよ。各自の能力とか人間関係とかかららしいぜ」
「ああ、だからしばらく経ってからにしたんだね」
「どう言うこと?」
小首を傾げながらエルマーがマルシェに尋ねる。相変わらず節々の動作が可愛らしい。
「いや、入学してしばらくしたらある程度グループって出来上がるじゃない?だからかなーって。やっぱり仲良い子たちと、悪い子たちとだったら、仲良い子達との方が連携も取りやすいじゃない?」
「ああ、そっか!」
「それにプラスして他のクラスの奴らも混ぜるってことか」
「そう言うこと」
「1グループの人数はどうなってるの?」
「10人一組だってよ」
「一分隊ってことだね」
ポンとエルマーは両手を合わせる。
「どんな構成になるんだ?」
「人数多いD、Eクラスはそれぞれ5人一組で、Cクラスは2人一組、んで副長役にB、Aクラスは一人ずつ。そんで分隊長役のSかAクラスの奴が一人。それをミックスして20チーム作るっつー話だ」
「ふーん、それにしてもあんた、いつもどこからそう言う情報を手に入れてくるの?」
「そいつは秘密ってことで」
ルースはなぜか様々な情報を知っている。以前彼に聞いたところによると先輩がいるということだ。おそらくその人物に聞いたのだろう。
「マルシェは何か聞いてないのか?テレサから」
「ん?テレサちん?んーん、前に聞いたら楽しみにしてて、って言われて何にも教えてくれなかった」
「あー、なんかそう言いそうだな」
そんなことを話していると、教室の前側のドアからカツラともみあげの印象が強いと評判のガバルが入ってきた。
「えー、皆さん、授業を始めるので、えー、席にね、えー、着いてね、くださいね」
分厚い瓶底眼鏡をクイクイと動かしながらジンたちに着席するよう促してくる。それに従ってジンたちも自分の席に戻った。
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「相変わらずあの先生ってキャラ作っているんじゃない?ってぐらい濃いよね。あんなに『えー』とか『ねー』とか言ってる人初めて見た」
隣の席のマルシェがヒソヒソと話しかけてくる。
「確かに、でもあれは素なんじゃないかと俺は疑っている」
「えー、嘘だぁ。あれ絶対作ってるって」
「いやいや」
「ほら、そこね、静かにね、えー、しなさいね」
「「はーい」」
それからしばらくジンにとって非常に退屈な授業が進行し、気がつくと終わっていた。どうやら寝ていたらしい。
「えー、それじゃあね、あの、えー、今日の授業は終了です。えー、それで課題はね…」
授業が終わるとルースとエルマーが再び彼らの元に集まってきた。結局四人は一日中、二週間後に行われる野外訓練について話し合った。
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「あー、誰かから話が漏れたらしいが、10日後に一年全体の合同野外演習訓練をやる。クラス混合のチームで1分隊作って、それぞれ街の東にある森の中で3日間過ごしてもらう。食料諸々は各自で適宜森の中で収集すること、そんで3日懸けて森を抜けて、さらにその先にある河原まで辿り着くことが課題だ。俺たち教師陣はそこでキャンプ張ってるから」
相変わらず気だるそうなベインが野外演習についての説明をする。それを聞いているとルースが前の方の席からどうだと言わんばかりの自慢げな表情を人に向けてきた。
「…つーことでお前ら適当に五人組作れ。2日後にお前らとチームになる他クラスの奴らと顔合わせするから。なるべく前衛、後衛のバランス考えて作れよ。はい、スタート」
そこまで言ってパンと手を1つ叩くと、そのまま教卓にいつの間にか置いてあった枕に顔を埋めた。
「よっしゃ、組もうぜジン!」
ベインを横目にルースが早速駆け寄ってきた。彼の行動を皮切りに周囲も動き始める。
「ああ」
「ぼ、僕もいいかな?」
「私も私も」
いつのまにかエルマーも来ており、ジンを伺うように尋ねてきた。さらにはマルシェもニコニコとしながらジンに話しかけてくる。
「これで4人か。じゃあもう一人はどうするよ。とりあえず俺とジンは前衛でエルマーとマルシェは後衛だよな。」
「う、うん。あんまり武術系は得意じゃないから、そうしてくれると助かるな」
「そうだよー。あ、でも私、治癒系しかできないよ?攻撃とか期待しないで欲しいかな」
少し申し訳なさそうな二人を見てルースは腕を組みウンウンと唸る。
「それじゃあ、あとは攻撃系の術を使える後衛を一人増やすか?」
「おう、そうだな。で、誰にするよ?」
「私的には女の子がいいかなー」
ルースの言葉に周囲を見回す。未だにチームに参加していない者がいないかと見ていると周囲の賑わいに全く興味を示さず黙々と本を読んでいる少女がいた。濃い紫色の髪は腰まで伸びているのではないかというほどの長髪で、ただ手入れはしていないのか、ウェーブのかかった髪が無造作に伸びている。前髪も伸び放題で目の辺りでバッサリとハサミで切ったのか一直線になっている。
「なあ、あの子はどうだ?俺話したことないんだけど」
ジンがその少女を指差す。
「どれどれ、って、あー、アルトワールさんね。確か土法術が得意って言ってた。少し変わってるけどいい子だよー」
「お、アルのやつまだチーム組んでなかったのか?あいつは結構役立つと思うぜ」
「知り合いか?」
「まあ幼馴染ってやつだ。そんじゃあ呼んでくるわ」
ルースは立ち上がるとずんずんとアルトワールの方に向かって行った。そして彼女が持っている本を上から掴み上げてから話しかけた。やがて彼女はため息をついてから立ち上がる。どうやら交渉が成立したらしい。そのままルースの後について、ジンたちの元へとやって来た。
「どうもー、アルトワールでーす。よろしくー」
やる気なさげに頭を下げる。
「紹介終わりかよ!?」
「えー、だって前に自己紹介してるじゃん」
「いやお前あん時も今と同じだったじゃねえか!」
「そうだっけ?あー、私はアルトワール・アニックでーす。気軽にアルちゃんって呼んでねー。趣味は読書でー、得意系統は土です。よろっす」
頭をボリボリと掻きながらおざなりな自己紹介をする。
「…一応補足しておくと、俺の幼馴染で、基本的に無気力で周囲に無関心なやつだけど、そんな悪いやつじゃないんで、あ、あと料理とか結構うまいんだよ。演習中期待していてくれよ」
「えー、めんどい」
「………」
珍しく苦い顔をしているルースを横目にジンたちもサッと自己紹介を済ませる。どうやら彼女は別に人嫌いというわけではないが、しがらみに囚われるのが面倒なので基本的に一人でいるそうだ。今回も余ったチームに適当に入るつもりだったようだ。
「…あー、全員チーム組み終わったな?そんじゃあ今日は解散だ」
ベインはそう言うとさっさと教室から出て行った。
「それじゃあチーム結成のお祝いに、どこかにご飯でも食べに行こうよ!」
マルシェの意見に各々(アルは渋々とであったが)賛同する。そうして五人は街に出かけた。
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