第2話 一人隔離病室へ。


入院中の妻ユリ子を、新年の3ヶ日、外泊が出来るとのことで、一応、その積りで息子と娘に伝える。

退院への準備段階と私は認識し、私一人で、どこまで対応できるか、あれこれ考え、生協の定期便に、おしめと女性用のパンツなどを注文する。


医師からの外泊の許可を得ていたが、12月25日のクリスマス当日、ユリ子を見舞うと、看護師から、

「この2~3日、夜間、隔離室に移しているんです。おトイレが上手くできず、ウンチを掴んだり・・・・・・・、どうしたんだか、便秘気味になって浣腸をしたり、それでおしめを・・・・・・」

「そうですか」何故って言われても、そんな事、私が聞きたい。


やっと、多忙な担当医師と面談出来て、

「本人、波がある、このところ調子が芳しくない」

と言われても、私は医者じゃない、患者の様子は担当医師なら推察できるだろうに。

結局、新年の3日間の帰宅は中止とならざるを得なくなった。


暮れも押し詰まった30日、ユリ子を見舞った。


相変わらずベッドに横たわっており、私の顔を認め、嬉しそうに顔を綻ばせ、ベッドから起き上がり、ホールへ出て来た。


歩く足元は少し弱弱しく見えるが、それでも物に摑まったり、壁を辿ったりと言うことは無かった。


相変わらず、妄想からの可笑しな事を話し、自分はもう死ぬのだと。生きている気がしないなどと、ぼそぼそと囁くように言った。


正月に帰りたかったのに、このまま連れて帰ってくれなどと。

出来る事なら、私だってユリ子を連れ帰りたい。

しかし、無論医師の許可も無い。

彼女自身、何と無く諦めの思いがあるようだ。

ホールで私によりかかるようにしていたが、疲れたのか、それとも何れ私が帰る時間にもなるので、諦めからか、自分からベッドへ戻ると言い、私に手を引かれて、病室へ戻り、ベッドの横になった。そんな彼女を残して、いつものように出入り口のドアで見送ることも無く、私は病院を後にした。


認知症、治療法は如何なものなのか、回復し再び正常な社会生活ができるようになるのだろうか、だんだん崩れて行くユリ子が哀れで、出来る事なら何でもしてやりたい。


そろそろ、自費入院による入院費の請求が有ろうかと思うのだが、彼女の預金から入院費を払わねばならないが、預金通帳は兎も角、キャッシュカードが無いので、印鑑がどれか、彼女に聞いても、もう確実な記憶も失っているようで、預金の凍結の恐れも考えられ不安が募る。


新しい年が明けて、正月三が日の三日の日、申し合わせて、娘と孫息子とでユリ子を見舞う。


孫息子は、この三月に大学院を卒業して、専攻したセラミックの研究の延長上で、岐阜県に本社のある企業へ就職が決まり、4月から岐阜本社勤務となる。

本人はやっと親離れできるのを喜んでいる。

娘は、息子が離れて行くのが不満であるが覚悟はしたようだ。


三人でユリ子を見舞い、ユリ子はかなり昂奮したようで、後で看護師から、それとなくお見舞いには、大勢でないようにと釘を刺された。


日の経つのは早いもので、成人式を挟んだ3連休も早過ぎた。何故か九州地方のある会場では、新成人が会場へなだれ込み、騒乱を起こしたりと、何を訴えたいのか、成人ならそれらしく、衆人が認めるように主張すればよい。


一方、ユリ子の見舞いにと思ったが、病院内でインフルエンザ患者発生で、暫く面会や見舞いは禁止するとの連絡があった。

ユリ子は、インフルエンザの予防接種を受けているし、看護師からも彼女は無事だとの連絡があった。ただ、これまで週に1回から2回は見舞いに通って居るので、恐らくこの週は寂しがっている事だろう。

そんな様子を想像するだけで涙が浮かぶ。


12月第一週からの自費入院費の請求があり、取り敢えず12月末日までの25日分、

¥67,385.-を病院窓口で支払う。

入院と同時に、半ば強制的に勧められ、業者のレンタルパジャマと最近使用するようになったおしめの代金の請求もあり、1か月分¥25,596.-をコンビニエンスストアで支払う。

私物のパジャマや下着を洗濯する手間が省かれるのは助かるが、下衆の勘繰りかとも思うが、業者と病院とが結託しているような気がしてならない、


1月25日、ユリ子を見舞う、夜中に徘徊したとか、看護師に逆らったとか、地下の隔離室に移されているから連れて来るとの事、ユリ子は気の合わない看護師に、本能からか抵抗するようだ。


認知症の所為なんだろうから、看護師も十分承知の事だろうと私は思うが、まともに看護師は対抗するようで、益々、ユリ子は反発するのだろう。


見舞いに行った私に、そんなユリ子の反抗の様子を訴える、私に訴えられても、私は医者でも看護師でもない、そっちが専門家の看護師じゃないかと言い返してやりたいくらいだ。


病院側は、入院契約の際に、作業療法も試みると、その何かのように許可を求められたが、無論、私の方は、唯、漫然とベッドに横になって居るのでなく、何らかの作業で、体と手足を動かし、知覚を働かせる事に反対する謂われはない、寧ろ積極的に体を動かすよう指導してもらいたい。


現況は、年中目の当たりにしていないので、何とも言えないが、まるで檻の中の熊のように、餌を与えられ生かされているだけのような気がしてならない。


近々に、また、担当医に状況と経過を聞いてみなければならない。


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