【8-2話】
流石に色々見て回って疲れたので、僕たちはモール一階にある適当な喫茶店に入り、お茶をすることにした。土曜日というだけあってそれなりに人で賑わっている。コーヒーをメインメニューとする店のため、小学生以下はあまりいない。
「~~♪」
そんな喫茶店で、ご機嫌な様子でバナナシェイクを飲む目の前の小学生。我が家の子供もまだ、コーヒーを好んで飲む歳ではない。
「ソラちゃん、ご機嫌だね」
「うん! 今日、すっごく楽しい!
「ソラ。黄倉さんは年上だってことを忘れるなよ?」
「いいですよ、先輩。自分もフランクに接してくれた方が話しやすいですし」
ソラが友達と遊んでいるところを見たことはない。けど、友達といる時のソラはこんな顔をするんだな。こうして知らない妹の一面を見られたのも、
「二人ってさ、見ていてすっごくお似合いだよね?」
「「ぶっ!!」」
と、突然のソラの一言に、二人揃って飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。
「こら、ソラ! 黄倉さんに失礼だろ!」
「え~? だってそうじゃん! もう付き合っちゃえばいいのに」
「ええええええっと、その……」
何!? この妹、何で急にそんなこと言ってくるの!? しかも、二人が対面している時に! 気まずいなんてものじゃないんだが!
「ほら見ろ! いきなりそんなこと言われても、黄倉さんは困るだろ!」
「わたしが兄さんに見つかったせいで、良いところを邪魔しちゃったみたいだから、和香ちゃんの後押しをしてあげようと思って」
良いところ……って、あれのこと?
すなわち、僕が黄倉さんの手を握ろうとしたところ……とか?
「ねぇねぇ、和香ちゃん。兄さんって頭固くて時々うっとおしいけど、良いところもいっぱいあるよね。どう思う?」
「おい、ソラ!」
「はぅ~……」
後押しとか言ってるけど、これ逆効果だろ、完全に! 黄倉さんを羞恥で殺す気か!
「……面倒見が良いところ、とか、しっかりと自分を持っているところ、とか」
いや、言うの!? 僕の前で言うの、黄倉さん!? そういうのはガールズトークとかでして欲しいんだが!
「カタブツで委員長な
「……」
そんな黄倉さんの一言に、僕も顔を赤くしてしまう。そんな僕と黄倉さんの様子を見て、ソラはニマニマしている。
「だってさ、兄さん。どうする?」
「なんだよ、どうするって」
「え~? わたしの口からそれは野暮ってもんでしょう~?」
何を今更! そうなるように誘導したくせに!
何この妹、すっごいうざいんですけど!
正面に座っていた黄倉さんも、顔の向きは逸らしているが、横目でチラッと見ている。
その、何かの言葉を期待しているような目を向けないでくれ……。妹の前で……。
「ぼ、僕、先に支払いをしてくるから!」
僕は立ち上がり逃げ出した。なんだよ、この空間。居心地が悪いにも程がある! 一旦お茶を濁そう。
喫茶店店員に伝票を渡し、会計を済ませると、担当してくれた女性店員が「可愛いガールフレンドと妹さんですね♪」とコメントしてきた。
「お兄さんの方から、告白しないんですか?」
女性店員が嬉しそうに小声で聞いてきた。
僕は戸惑い、明らかに動揺して否定したが、店員のお姉さんはこう一言付け加えた。
「女の子は、男の子の方から言って欲しいものですよ」
お姉さんはバチっとウインクを決めて、次のお客さんの会計に移った。レジでも、全然気が休まらない。このお姉さん、絶対僕らの会話を聞いていただろう!
しかし、一理ある。
これだけ黄倉さんも好意を示してくれている。僕も、黄倉さんのことは決して嫌いじゃないし、むしろ、意識してしまっている。昨日からのことだから、これが一過性のものなのかどうか、確証はないけど、今日のデートは本当に楽しかったし、また遊びに行きたいと思っている。
だったら、僕の方から言うべきなのか? 恋愛経験値は低いから、よく分からないな……。
そう考えて、僕は席に向かっていく。まぁ今日はひとまず告白は忘れよう。けど、少なくとも、次のデートの時までには、自分の気持ちを整理しておかないといけないかもしれないな。
「わーい! 喫茶店、喫茶店だー!」
お店に子供が入ってきた。無邪気な小学校低学年くらいの男の子だ。親御さんがそれを追いかけ、子供に注意をする。
だが、子供は喫茶店が楽しみなのか知らないが、周りが見えておらず、人にぶつかる。さっきまで僕の後ろに並んでいた男性の三人組だ。
「おっと」
「す、すみません! 大丈夫でしたか?」
母親がぶつかった相手に注意する。ちょっと怖そうなメガネの男性だが、「いえいえ」と許した。
どうやら、問題は起きなそうでなにより。
「あの、何か、落ちましたよ?」
母親が、ぶつかった相手の懐から落ちた何かを拾おうと身をかがめる。
「……え?」
母親は、目を丸くした。
そこに落ちていたのは、黒い金属製の物体……。
ズガァァァァン!!
強烈な音が鳴り響いた。
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