【7-5話】
「もしかして、ずっと見ていたのか!?」
「ち、違うよ! さっき着いたところだもん! 兄さんたちが書店から出てきてからしか見てないよ」
「結構見てるじゃん!」
少なくとも十分以上は様子を見られていたことになる。
いや、そもそもだ!
「大体、何でソラがここにいるんだ!」
「え、えーっと……。兄さんの初デートの様子が気になったから……。あと、わたしもこのショッピングモールに来てみたかったし」
妹に心配されるほどなのか、僕……。確かに女子との初デートではあるけど、そこまで頼りなく見えるの?
「あれ?
「
黄倉さんも気になって通路脇までやってきた。そんな黄倉さんを見て、ソラは年相応の明るさを持ちながらも丁寧に挨拶をした。
「初めまして。
「い、妹さんですか? こちらこそ、灰川先輩には、いつも、お世話になりっぱなしです。
ソラの礼儀正しい態度を見て、黄倉さんは感心している様子。そんな黄倉さんを見て、ソラは楽しそうに話した。
「黄倉さんのファッション、とっても素敵です! すごく女の子らしいですね!」
「え、え? 本当? ありがとう」
「ね、兄さんもそう思うよね?」
ソラが僕に矛先を向けたので、僕も同意する。
「あぁ、とてもよく似合っていて可愛いと思う。……だがソラ。話を逸らすのはやめようか」
ちょっと真剣な顔つきで、ソラを見る。ソラも僕の態度の変化を感じ取り、ふざけずにこっちを見ている。
「ソラ。僕が言いたいこと、分かるな?」
「う、うん……。盗み見するようなことして、ごめん……」
「それもそうだな。カメラで勝手に撮影ってのも褒められたことじゃない。僕は家族だからいいけど、その写真で黄倉さんが不快な思いをするかもしれないだろ?」
友達の盗撮とかをソラには気軽にやって欲しくない。冗談だとしても、だ。今回は、僕で運が良かった。まぁ、ソラもその辺りのこと、本当は分かっていると思うけど。
けど、僕としてはこれよりもソラを叱っておきたいことがある。それは、
「けど、僕が怒っているのは、ソラが僕に行き先を伝えずに遠出したことだ」
事前に伝えず、隣町のI市まで電車に乗って来たことだ。
「僕と約束しただろ? どこかに行く時は書き置きか、メールで連絡してほしいって」
日頃から言っていることだ。ソラと、そして僕も行き先を伝えることを徹底している。両親がいない僕らにとっては、お互いに心配をかけないために、大事なことだ。
「それに、電車に乗って一人でここまで来たことも見過ごせない」
「でもわたし、電車くらい一人で乗れるよ」
「確かにそうかもしれない。ソラは賢いし、しっかりしている。それは僕も分かっているさ。けど、どこかに行く時は連絡、遠出するときは僕と一緒に。これは守ってくれ。でないと、ソラに何かあったとき、僕は何もできない。僕が事前連絡しないで家にいなかったら、ソラはどう思う? ソラなら、分かるだろ?」
ソラも言われて、自分の行動が僕を心配させているということに気づいたようだ。申し訳なさそうな顔をしている。
「ごめんなさい、兄さん。次から気をつけるよ」
「あぁ。分かってくれたならいい」
僕は表情を和らげて、ソラを許した。
まぁ、今回は僕のデートを覗きにきたってことだから連絡がなかったんだろうけど。
それでも、言うべき時は言う。叱る時は叱る。そして、次から気をつけてくれればいい。ソラはまだ、小学生だ。覚えること、知るべきことはたくさんある。
それを教えてあげるのが兄であり、両親がいないソラにとっての親代わりだ。
「黄倉さん、ごめんね。妹が来ちゃって……」
「ごめんなさい、黄倉さん……」
僕とソラは黄倉さんに謝罪した。何だかもう、黄倉さんに迷惑しかかけていない気がする。初デートの印象は最悪間違いなしだな、こりゃ。
「い、いえ。それより灰川先輩、やっぱりお兄さんなんですね」
「え? まぁそうだけど、それはどういう……?」
「何ていうか、妹さんのことを大事に思っているんだなって、伝わってきました。それでも、普段の風紀委員長としての灰川先輩とも変わらないような気もして。優しくて、自分にも他人にもすごく厳しくて、それでもやっぱり優しい」
黄倉さんはまるで、自分のことのように嬉しそうにして話す。機嫌が悪いどころか、いいくらいだ。
「やっぱり灰川先輩、カッコイイですね。ソラちゃんが羨ましいです」
そこで、黄倉さんはソラの方を向いて微笑みかけた。さっきまで暗い顔をしていたソラだったが、黄倉さんの顔を見ると、笑顔が戻ってきて、
「わたしの自慢の兄さんなんです!」
と、いつもの明るい調子で言った。
叱ったばかりだから、気まずくなるかと思っていたが、黄倉さんのおかげでそんなこともなさそうだ。やっぱり黄倉さん、すごいな。僕じゃこういうことは絶対にできない。
「さてと……黄倉さん。悪いんだけど、これからはソラも一緒に行動してもいいかな?」
「え!? 兄さん、いいよそんなの! わたし、一人で帰るから!」
「ダメだ。危ないだろう。僕に見つかった以上、一人で帰るのは許さないぞ」
「もう! 兄さん、過保護すぎ!」
何とでも言え。そもそもソラだって電車に乗り慣れているわけではないんだ。迷子にでもなられたらこっちが困る。
「自分は、全然構わないですよ」
「助かる。この埋め合わせは必ずするから」
「いえ、そんな。むしろ、自分もソラちゃんともっと話してみたいですから」
いい子だな~。デート相手の家族とか、一番現れて欲しくないと思うんだけど、黄倉さんは全然そんなことを思っていなさそう。知れば知るほど、黄倉さんが魅力的な女性に思えてくる。
「ほら、黄倉さんもこう言ってくれている」
「ソラちゃん、どこか行きたいところある?」
「えーー!? いや、本当にわたし……」
と、ソラはなおも遠慮しているが、それはソラの腹の虫によって遮られた。
時刻はちょうど正午。僕も少しお腹が空いてきたところだ。
「じゃあ……とりあえずお昼を……」
顔を赤くして素直になったソラと、僕、黄倉さんはショッピングモールのレストランに向かった。
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