第6話 国王の思い
──ソフィがジャイアヌスに婚約破棄を告げられたあと、国王と王妃は頭を悩ましていた。
「エリザベスよ、此度の婚約破棄についてどう思う」
「良き娘であるソフィさんと結ばれて、ジャイアヌスもようやく落ち着いて貰えると思っていたのですが…………どうやら悪癖は治らなかったようですわ」
「はぁー、やはりそうか……」
国王と王妃は部下からの報告でジャイアヌスがたびたび女遊びを繰り返すことを知っていた。
いい加減に落ち着いて貰うためにも、宰相の進めもあって国王自らフェルンストレーム家との縁談をジャイアヌスに持ち込んだのだ。
しかしそれでもジャイアヌスの悪癖は治ること無く、婚約者がいるにも関わらず他の女性と遊び続けていたと報告を受けている。
「ジャイアヌスはソフィ君の品位に問題があったと言うが、やはり問題はジャイアヌスにあるのだな……」
「そうでしょうね」
此度の婚約破棄に至った理由の詳細についてジャイアヌスは、侍女を虐めたソフィが王家の品位に相応しくないと言ってその場は押し切られたのだが、国王はその切っ掛けはジャイアヌスの方にあると理解している。
しかしジャイアヌスの体面を考えると、国王はあの場で追及することは出来なかった。
「ソフィ君には本当に悪いことをしたな」
「あなたがそれを言うと説得力がありますわね」
「うぐぐ」
かつて国王であるウィリアム・グスタフもまた、妃となるエリザベスに出逢う前までは女遊びに興じていた。
エリザベスに惚れ、尻に敷かれてからは落ち着いたのだがジャイアヌスと同じように侍女に手を出していたので、いつかは落ち着くであろうという思いもあり国王は強く叱ることが出来ないでいるのだ。
ウィリアムが国王へ即位する前に身辺調査が行われたのだが、ある噂が囁かれたまま真実が明らかになっていないことが一つ残ったままである。
「しかしあの優しいソフィ君が侍女を虐めるなどと、そんな愚かなことを行ったのはなぜなのだろうか……」
「あら、もしこの場にあなたが寵愛していた侍女がいたら私も心穏やかにはいられないと思いますわよ? ソフィさんは気付かれないようにすべきだったとは思いますが、同情すれども非難すべきではありませんわ」
「そうか…………すまない」
「私に謝ってどうするのですか。今回の件でソフィさんは罰を受けなければなりませんが、手を回して差し上げなさい」
「はい」
国王に即位する前にウィリアムが寵愛していた侍女は母親の病の為に城を去ったのだが、それが無ければ此度のジャイアヌスと同じことになっていたかも知れないと知りウィリアムは冷や汗をかく。
そしてジャイアヌスが切り出した婚約破棄とはいえ明らかになったソフィによる侍女に対する虐めは問題だ。
その為、体面を維持するためにもフェルンストレーム家が処罰をしなければいけないのだが、情状酌量の余地は多分にあるので手を回すことになった。
「しかしこれでまた、子に王位を継がせる日は遠くなりましたわね……」
「ああ、まったく困ったものだ」
この国の王位継承権は王家の血を引く者に平等に与えられ、国王が次期国王を指名することで王位が引き継がれる。
万が一、次期国王を指名する前に国王が亡くなった場合や、有事の際の決定権の都合により生まれた順に掲示板の順位が決められるが、国の制度上で最も優先されるのは現国王と王妃の意思であるのだ。
しかし第一王子のヘンリーは学問の道に魅せられ王位には興味を示さず、今をなお他国を渡り歩いている。そして期待された第二王子のジャイアヌスはご存知の通りだ。
それならば第三王子以降に期待したいところなのだが、彼らはまだ十五歳に満たない子供である。
「ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫かしらあなた?」
「ああ、すまない咳が出ただけだ。……だが私に何かあっては困るから、早く王位を安心して引き継がせられる者が出てきて貰いたいものだな」
「ええ、そうね」
今はまだ健在だが、高齢になった国王が病に臥せると国の将来は危ぶまれる。
隣国との争いを考えると国の弱みを見せるわけにはいかないので早めに次期国王を決定したいのだが、またしてもその日は遠ざかってしまい国王の悩みの種は深まるばかりなのであった。
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