悪役令嬢を演じて婚約破棄して貰い、私は幸せになりました。

第１話 婚約破棄されました

　第二王子であるジャイアヌス・グスタフから会食に招待された私は、正装を身に纏った人達と一際に豪華絢爛な椅子に座っている王様に囲まれ、何があるのかと些か緊張している…………という風を装っているが、実はジャイアヌスが何を言い出すつもりなのかは予想が付いている。

　しかしそんなことは露知らず、ジャイアヌスは国王の御前にも関わらず高々と宣言する。

「ソフィ・フェルンストレーム！ お主とは婚約破棄をさせて頂く！！」

　突然のジャイアヌスの宣言を受けて、それまで思い思いに話をしていた人達は静まり返り、一様に驚きの表情を隠せない。

　それも当然で、一国の王子が公の前で婚約を破棄するなどそうある話では無く、むしろ結婚式の予定が知らされるのではと思っていたのだろう。

　だからこそ皆が一様にどのような反応をして良いのか戸惑っている様子なのだ。

　普通のお嬢様が一国の王子との婚約を破棄されたのであればショックで立ち直れない出来事なので驚きの表情をつくるが、こうなることを期待していた私の胸中は至って穏やかであり冷静に聞き返す。

「ジャイアヌス様、婚約破棄の理由を伺っても宜しいかしら？」

　ジャイアヌスは私を睨み付けながら怒鳴り付けてくる。

「お主の我が王室の侍女に対する行いは目に余り、王家には全くもって相応しくない！ 私との婚約破棄を持って、己の行いを悔い改めるが良い！！」

　ジャイアヌスは時折に目配せをしているので、その言葉が特定の侍女を指していることは丸分かりなのだが、そんな物が無くてももちろん私はその事を知っていた。

　むしろこの数ヶ月はこうなるようにその侍女を分かりやすく虐げて、ジャイアヌスが婚約破棄を言い出すよう仕向けてきたといっても過言ではない。

「そうですか…………いえ、分かりました。どうやら私はこの場に相応しくないないのかもしれませんね。それでは私はこれで失礼致しますわ」

　国王はジャイアヌスから事前に聞かされていなかったのか思い止まるよう説得をしているが、ジャイアヌスも頑なに聞き入れようとしない。

　そして私も、あくまでもショックを受けていることをアピールする為にも顔を扇で隠しながらジャイアヌスの前から立ち去る。

　……むしろ思い通りになり過ぎて、溢れそうになる笑みを堪えるのに必死だったのだけどね。

　こうして無事にジャイアヌスとの婚約破棄を達成した私は騒然とする王宮を軽い足取りで後にし、こぼれそうになる笑みを御者にバレないように馬車に乗り込み家路につくのであった。