聖なる夜は二息でいいの

影宮

第1話寒いから

 クリスマスなの。

 クリスマスなのに。

 雪が風が、窓の外を通り過ぎていった。

 世の中は、恋人が一緒に過ごしたがったりする。

 けれど、クリスマスというものは異国からすれば、本当は家族でゆるりと過ごすものなんだって。

 だからね、恋人同士、ってわけでもなくもう家族なんだし、一緒に過ごしたかったんだよ?

 そりゃ、こちとらの我儘。

 今から約2000年前の今日、12月25日、イエス・キリストという名の者が誕生したっていうのをお祝いするっていう意味があるんだって。

 最早、この日ノ本じゃ関係ないのかな?

 でもね、そのイエス・キリストが生まれたっていう記録が残ってるわけじゃないし、詳細は不明。

 じゃぁ、なんでこの日?

 才造が、帰ってこない、なんでこの日にしたの?

 恨む方向が根元へと。

 暖かいはずの室内で、寒い気がして小さくなる。

 期待ばかりが虚しく時を進めていくのだ。

 玄関に座り込んでみる。

 扉が開いたら、「おかえり。」っていうんだ。

 居てくれるだけでいいの。

 プレゼントは要らないから。

 あんたがプレゼントそのものなの。

 帰ってきてよ。

 わかってる。

 知ってるよ。

 どうしてこの日がクリスマスなのか。

 どうして才造サイゾウが帰ってこないか。

 古代からあった冬至の祭りのせいだよね。

 当時のローマ帝国は、太陽を神と崇める太陽信仰をやってた。

 秋から冬にかけて日照時間が短くなって、それを死が近付くだなんて恐れられてたんだ。

 けれど、冬至を境に日が長くなるのを、太陽の復活だってお祝いしてた。

 うつろって、世の光と呼ばれていたイエス・キリストが冬至の祭りでお祝いされるようになったとさ。

 まぁ、そんなもんだよね。

 じゃぁ、仕方ないの?

「才造。」

 いない名を呼んでみる。

 昔はそれだけで十分だった。

 直ぐに来てくれたものね?

 忍だもの。

 長が呼べば大概、部下は皆、そう。

 部屋に飾ったクリスマスツリー。

 因みにクリスマスツリーっていうのは、8世紀頃のドイツが始まりなんだよ?

 約400年前かな。

 新年とかのお祝いの時に木の枝を家や天井に飾る習慣があったんだけどさ、新年の前のクリスマスシーズンにも何故だか飾られるようになったんだよ。

 当時の国王さんから世界中に知られるようになっちまって。

 それがドイツね。

 でも、冬至の祭りでも太陽と共に冬になっても葉っぱを落とさない常緑樹も永遠の命のシンボルだって飾られてたし、クリスマスに常緑樹を飾るようになったそうな。

 面白い?

 こんな知識、誰も得しないよ?

 暇でこんなこと思い出してるんだもん。

 ねぇ、会いたい。

 目の前の扉に鍵を閉めた。

 もう、帰ってこないから。

 いいの。

 いいもん…。

 一人でケーキ食べるんだ。

 己で作った苺のケーキ。

 食べて欲しかったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る