背中が見える 9
朝サエを抱こうと蒲団に潜り込んだが姿がない。どうも帰ってきた形跡がない。どうもサエは私の心の中にしっかり住み着いたようである。
事務所に着くとホワイトのベンツが留まっている。呼び出しの話は聞いていない。事務所に声をかけて車に戻ると、ゆっくりと後部ドアが開く。
「朝から悪いな」
若頭がコーヒーを手渡す。
「本部で京都駅裏の売買の承認が出た。日にちはやっさんと決めてくれ。今日来たのは伊藤が探しているものが分かったからだ」
「それは何です?」
「貸金庫のキーらしい。これは裏の繋がりのある関東の親分から聞いたので間違いない。今の時代はやくざも敵とのルートがないとダメなんだ。ただ伊藤をこれ以上のさばらせると関西の地盤が危うくなる。それだけ大きな金を動かしているわけだな」
「貸金庫の中身は?」
「S銀行の頭取を脅すものだろう」
私は黒鞄の中のキーを思い出していた。やはり貸金庫だったのだ。S銀行の頭取の不利な証拠が入っているようだ。
「君が初代のS銀行の第2総務課長だとも聞いた。第2総務課長というのは頭取の独立した機関で、大規模案件や政治家対策をしていたそうだ。初めは伊藤が社外担当の時期もあったが、頭取は彼の危険性を見抜いて君を抜擢したのだそうだ。2代目課長は殺されたようだな。警察が秘密裏に内偵しているようだ。彼のことは覚えている?」
「いえ、まったく記憶はありません」
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