第三章:父と娘

「そなたがこの首飾りを作ったのですか」


 胸で燃えるように輝く朱雀を示して公主は静かに尋ねる。


「仰せの通りでございます」


 傍らに杖を置いた、白髪の男は病身らしい痩せこけた肩を震わせながら答えた。その後ろにひれ伏している、年の頃は公主と変わらぬ娘は案じる風に円らな大きい目を注いでいる。


「いや、図案を描いて材料を揃え、白玉を磨き上げたのは確かに私でございますが」


 白髪の男はそこで苦いものを飲まされたように一瞬、蒼白い眉間に深い皺を走らせた。


「瑪瑙で朱雀を彫り上げたのはそこにいる娘でございます」


「父さん……」


「お前は黙っていろ」


 言い掛けた娘を父親は振り向いて厳しく制すると続ける。


「当代一の名工と言われ、長らく后妃様や公主様の宝飾品を手掛けて参りましたが、ここ数年は衰えを感じておりました」


 娘と似通った円らな瞳をどこか虚ろに漂わせながら白髪の男は語った。


「そして、とうとうこの首飾り制作の半ばで病に倒れました」


 娘は恐れ入った風に大きな目を伏せている。


「娘は私の技を見て覚え、いつの間にか追い越しておりました」


 父親の目に光るものが灯った。


女子おなごの身ではありますが、数ある弟子の中でも我が後継と認められるのは、この娘だけでございます」


 啜り上げる音がして粗末な衣を纏った娘のかぼそい肩が震える。


「そうでしたか」


 公主の白い手が胸のあかい神鳥を固く握り締めた。


「以降、そなたの娘を私の宝飾品の職人に任じます」

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