第三章:父と娘
「そなたがこの首飾りを作ったのですか」
胸で燃えるように輝く朱雀を示して公主は静かに尋ねる。
「仰せの通りでございます」
傍らに杖を置いた、白髪の男は病身らしい痩せこけた肩を震わせながら答えた。その後ろにひれ伏している、年の頃は公主と変わらぬ娘は案じる風に円らな大きい目を注いでいる。
「いや、図案を描いて材料を揃え、白玉を磨き上げたのは確かに私でございますが」
白髪の男はそこで苦いものを飲まされたように一瞬、蒼白い眉間に深い皺を走らせた。
「瑪瑙で朱雀を彫り上げたのはそこにいる娘でございます」
「父さん……」
「お前は黙っていろ」
言い掛けた娘を父親は振り向いて厳しく制すると続ける。
「当代一の名工と言われ、長らく后妃様や公主様の宝飾品を手掛けて参りましたが、ここ数年は衰えを感じておりました」
娘と似通った円らな瞳をどこか虚ろに漂わせながら白髪の男は語った。
「そして、とうとうこの首飾り制作の半ばで病に倒れました」
娘は恐れ入った風に大きな目を伏せている。
「娘は私の技を見て覚え、いつの間にか追い越しておりました」
父親の目に光るものが灯った。
「
啜り上げる音がして粗末な衣を纏った娘のかぼそい肩が震える。
「そうでしたか」
公主の白い手が胸の
「以降、そなたの娘を私の宝飾品の職人に任じます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます