第36話 ほんを書く

 ここは渋谷のマンションの屋根裏部屋。

「本を書いて、怪獣ちゃん。」

 栞は姉の立場を利用して、妹の谷子に本を書かせようとしている。

「ええー!? 書けないよ!? 私は本を読むのは好きだけど、本を書いたことはないもの!?」

 さすがのほんのおねえさんの谷子でも本を書いたことは無い。

「大丈夫! 怪獣ちゃんなら本を書けるわ! 私が導いてあげる! エル・エル・エルメス!」

 栞は魔法をかけて谷子を天才小説家にする。

「本を書くわ! 集中するから出て行って! お姉ちゃん!」

 谷子は魔法でヒットセラー小説作家になっていた。

「カキカキ!」

 谷子はものすごい勢いで小説を書いていく。

「おお!? 怪獣ちゃんが燃えている!?」

 これは傑作ができると栞は期待する。

「できた! 花火ならぬ、火花! 渋谷の街を火が襲うの! 山火事のように渋谷を燃やして何もなくなった廃墟から、渋谷の再開発をする人々の不滅の魂の物語!」

 これが本当の谷子の処女作である。

「違う!? 怪獣ちゃんが書く物語は、魔法少女エルメスよ!」

 ほんのおねえさんの妹、谷子が魔法少女エルメスの栞の物語を書くという、正に鉄板の物語である。

「え? どうせなら夜空のお星さまの続編を書くよ。」

「ダメ! 怪獣ちゃんは魔法少女エルメスを書くの! エル・エル・エルメス!」

 栞は谷子に魔法をかけて、何が何でも自分が活躍する魔法少女エルメスを書かせたいのである。

「よし! 書くぞ! 魔法少女エルメスちゃん!」

「これでいいのだ。」

 栞は自分の思い通りに話が進んで絶好調。

「本当にこれでいいんですか? ワン。」

「エルメス様は、何が何でも2020年エルメス様降臨祭をするつもりですね。ニャア。」

 ケーリーとバーキンは自分のご主人様の性格を疑う。

「あんたたち、何か言った?」

「いいえ!? 言ってません!?」

「これでいいのよ。人生はゲームなんだから。昨日も箱根駅伝で青山学院だって6位に沈んだんだから。筋書きのないドラマよ。」

 栞は得意げに言い放つ。

「書けた! 魔法少女エルメスちゃん!」

 遂に谷子は魔法の力で魔法少女エルメスを書き上げた。

「よくやったわ! 怪獣ちゃん! さっそく読ませて!」

「いや。恥ずかしい。」

「いいじゃない。私たち姉妹の仲じゃない。今日は青学は2位までがんばったんだから。」

 栞は谷子から原稿を奪い取る。

「さあ! 読ませてもらうわよ!」

 栞は本を読み始めた。

「ギャア!? どりゃあ!? 芋さ掘るだ!? 畑に行くだ! 働け! 働け! 死ぬまで働くだ! お芋! お芋!」

 世界は芋の蔓に包まれた。

 地球を侵略したのは、地球外生命体、アンノウンならぬ、安納芋。

 安納芋はポテト軍団を率いて地球を侵略しにやって来た。

「お芋なんかの好きにはさせないわよ。」

 地球に危機が訪れた時には、カワイイ魔法少女たちが現れ世界を救う、という伝説がある。

 そして伝説通り、魔法少女が現れた世界を救おうとするお話である。」

 ほぼ簡易なあらすじである。

「いいわ! ストーリーらしいストーリーがある! 私が世界を救って、正義のヒーローになり、降臨祭を行えるのね! キャッハ!」

 本を読んだ栞は発狂した。

「さすがほんのおねえさんの怪獣ちゃんの書いた本だわ。ありがとう!」

「そんなに褒められると恥ずかしい。エヘッ。」

 こうしてほんのおねえさんの谷子は栞の本を書くことになった。


つづく。

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