第31話 9才の友達

 ここは渋谷のマンションの屋根裏部屋。

「よく食べた。ワン。」

「箱根駅伝まで寝ます。ニャン。」

 お正月からケーリーとバーキンはおせちとお餅ばかり食べて食っては寝るダラダラした生活を送っていた。

「ただいま。ゲッ!? 太ってる!?」

 16才の谷子の世界から帰って来た栞は、ゴロゴロ寝転がっているデブ犬とデブ猫を見て衝撃を受ける。

「あんたたち!? おせちにお餅も全部食べたのね!?」

「あ、おかえりなさい。エルメス様。ワン。」

「お土産ですか? もう食べれません。ニャア。」

 ケーリーとバーキンは眠たそうな態度で答える。

「あんたたち! 今から大手町に行って、箱根駅伝を走って来なさい!」

「ええー!? そんな!? ワン。」

「無理です!? もう食べれません!? ニャア。」

「痩せるまで帰って来るなー!」

 栞はケーリーとバーキンを部屋から追い出す。

「まったく、近頃の犬と猫は留守番もできないんだから。もう。ちゃんと怪獣ちゃんは家にいるんでしょうね。」

 栞は簡単な透視で谷子の部屋を覗く。

「お母さん、遊びに行ってきます!」

 まだ1月2日なので渋井家は父は郵便配達。母は渋谷区役所が休みなので寝正月。渋井家には百貨店の初売りバーゲンに行くお金はない。

「谷子、どこ行くの? 桜ちゃんと南ちゃんとこ。」

 初登場、桜ちゃんは桜ヶ丘より。南ちゃんは南平台より。元々、登場人物の名前は渋谷の地名である。大家さんのおばあちゃんの松トウも松濤からきている。

「渋谷のニューイヤーは、ハロウィンのような暴動が起こるから、遅くなる前に帰って来るのよ。」

 渋谷周辺で暮らす子供たちは、常に危険と隣り合わせ。仕事の無い若者の暴動。カワイイ女の子のラブホへの連れ込みレイプ。ピストル、麻薬に注射器がマンションのごみ捨て場から見つかるなど日常茶飯事であった。

「はい。」

 谷子は友達と遊びに出かけて行った。

「「あなたの知らない本当の渋谷! 実録! 渋井谷子の密着渋谷警察24時!」いい企画ゲットだわ! メモしなくっちゃ。」

 栞は良いアイデアを思いついたので書いておく。

「キーン!」

 谷子は9才の若さでマンションから地下道の入り口に入って行く。地下道は駅から東急百貨店、109、ヒカリエ、ストリーム、ヤマダ電機、ユニクロ、センター街に繋がっている。

「お待たせ! 桜ちゃん、南ちゃん。」

「あ!? 谷子ちゃんだ。」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」

「こちらこそ。これは丁寧に。」

「あけおめ、ことよろでいいのよ。だって私たち渋谷ギャルだもの。」

「キャッハッハ!」

 谷子たちは、渋谷のセルリアンタワー東急ホテルのロビーで待ち合わせをしている。

「あの、ここは子供の来るところじゃないぞ。出て行け。」

 谷子たちが騒いでいると年末年始の短期のアルバイトのホテルの若い人が怒ってきた。もちろん常連様の顔と名前は知らないし、人手不足の数合わせなので失礼なことは多々ある。

「ウエエエ~ン!」

 ホテルの人が怖いので、谷子たちは泣き出した。

「泣いても無駄だ! 悪ガキども追い出してやる!」

 ホテルの人が谷子たちを子供と思って失礼な態度をとった。

「どうしたの? 谷子ちゃん。」

 そこに大家さんのおばあちゃんとホテルの総支配人が現れる。

「ウエエエ~ン! おばあちゃん! この人が子供はホテルに来るなって! 首根っこを掴んで谷子たちを追い出そうとするんだよ!?」

「なんですって!? 総支配人!」

 孫のように可愛がっている谷子と、谷子の友達を新年の女子会に招待したのは大家さんのおばあちゃんだった。

「静まれ! 静まれ! このお方をどなたと心得る! 東急グループの大株主! 松トウ様だぞ! 頭が高い! 控えよ!」

「ははあ!」

 総支配人の口上に、ロビーにいる従業員から外国人のお客様まで床にひれ伏す。

「さあ、谷子ちゃんとカワイイお友達たちVIPルームで新年会をして楽しもうかい。」

「やったー!」

 谷子たちはエレベーターの乗って高層階に移動する。

「おばあちゃん、急に閉めに入ってるけど、いいの?」

「もう1500字超えてるし、尺がないんだよ。書こうと思うといつまでも書けるからね。」

 谷子も納得の理由である。


つづく。

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