春夏秋冬

またたび

春の明け方

 君は僕がどういう人間か知らないのだ。


 君はこの世界がどういう形か知らないのだ。


 何も知らないくせに何を語りたがる。


 ああ、今日も一人っきり。

 ああ、今日も君に会いたくない。



 * *



 宇宙にはあらゆる世界がある。そしてここは春しかない世界だ。そして春といえば花見である。


「香奈、早くおいでよ」


 僕は君を手招きする。

 ボクハキミヲテマネキスル。


 君は陽気にこう言う。


「誰を殺すの? 今日は?」


 僕は静かに答える。


「今日は花見。だから殺しちゃいけないよ。今日は眺めるのに徹しようよ」


「えーー」


 可愛い笑顔。思わず僕も笑ってしまう。そして眺めるは桜の下のあるところ。


「あっ、見て!! 手が出てるよ!」


「あれは見た感じ……男の手かな。香奈はあれ、どう見える?」


 そしたら香奈は僕の腕を急に握りしめた。思わずゾッとする。


「あなたとそっくりな手……やっぱり男の人だよ!! ねえ、あの手、年齢はどれくらいだと思う?」


「うーん……」


 悩むが、僕が考えるに


「二十歳くらいかな」


「私もそう思う!! やっぱり私たち……」


「「気が合うね!!」」


 彼女の口の動きをよく見て、僕も無理矢理に声を合わせる。


「くすくす」


「きゃはははっ」


「ゲラゲラ」


 あらゆる笑い声が桜の舞う場所で行き交う。しかし皆が見てるのは決して桜ではない。


 そ

 の

 桜

 の

 下

 に

 埋

 ま

 っ

 て

 い

 る

 死

 体

 だ


 そこで平凡にかつ間抜けに、そして享受すべき素敵な素敵な幸せを噛み締めている諸君よ!!


 ここに告ぐ。君たちの世界は幸せだ! 春だけじゃなく春夏秋冬……四季があるのだから。

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