Drift14 似者

 大剣士のアイツも加わり宿の主人に話を通すと部屋料はそのままで使ってもらっていいと返ってきた。何でも私のAランク取得のお祝いにそこはサービスしてくれるという。宿の主人も言っていたが私のような冒険者証のとり方は滅多にない様だ。

 ま、そんな事はどうでもいい。気絶したカイトを寝かせて、私は鋼糸の手入れ、アイツは大剣を磨いている。すると不意にアイツが話しかけてきた。


「そう言えばお互いにまだ名乗ってませんね。私はヴェインと言います」

「あー確かに。忘れてた。私はKだ、よろしくな」

「その少年はカイト、で良かったので?」

「そうそう。可愛いだろ?」

「ええ、まあ可愛らしいとは思いますが……」

 ヴェインは言葉に詰まる。言いたい事は想像ついてるし悪い風には言わないだろうが念の為聞いておこう。

「『弱そうだ』って思ったろ?」

「……失礼ながら。事情があるとは思いますが何故貴女程の実力者が彼に?」

「ああ、事情は大アリだ」

 前置きしてヴェインに私の正体? 出処? を話す。どうせ組んじまったパーティーだ、隠し事なんぞしてたらこじれて面倒くさくなること間違いナシ。だから全部喋ってやった。私が異世界から来た、って事も含めてな。


「……異世界から。にわかには信じ難いですが嘘を言っている目ではありませんね。信じましょう」

「はは、割とすんなり信じてくれるんだな」

「この少年が貴女を信頼しているのがいい証拠です」

「なるほどな」

 カイトは弱く、そして純粋で素直だ。ともすればこれはこの街で擦り切れて、強者に付き従うだけの「取り巻き」になりうる。だがカイトはこの街もギルドも好きじゃないと言った。大分と長く居る筈であろうこの街とギルドを。ロクな依頼も貰えず、強さを勘違いしたあの大男みたいな奴らにいじめられても尚、「取り巻き」にはならなかった。

 カイトは「強者」を見定める目を持っていて、「強者」にしか懐かない。だが自分と同じかそれより弱い者、そして「困っている者」には手を貸す事を惜しまない。宿屋の主人がそうだ。そしてこの「強者」を見定める目は嘘を見抜く目でもある。限定的だがな。

 まぁ本人は無意識だろうし、そもそもカイトにとっての「強者」の条件はには厳しすぎる。この手の事をヴェインは感じ取ったんだろう。聞いてやったらそのとおりだと返ってきた。


「私の勝手な推測も入ってるからアンタと全く同じって訳じゃあないとは思うがな」

「多少の違いはありますが概ね一緒ですよ。それに間違いなく貴女は『強者』でしょう」

「確かに試合では勝った。だが何故『強者』だと言える? 本気出して無いからか? でもそんなの勘違いした奴でも出来るぞ?」

 私の質問に対してヴェインは少し黙り、考えた後で答えてきた。

「彼が認めているから、というのは理由になりませんね。まあ、なんとなく分かるんです。私も『強者』ですから」

「ほー、自分の事を『強者』だと言い切る訳か。大した自信だな」

「貴女と戦う前までは自信があったんですが……」

  そこまで言ってヴェインは意味ありげな沈黙とため息をつく。んでもってコイツの言いたい事は分かる。正体もな。だからあえて聞いてやる。


「負けて自信無くしたのか?」

「いいえ、確信したんですよ」

「何をだよ」



「自分が『強者ばけもの』だって事を、ね」


「やっぱりか。ま、私も『化物きょうしゃ』だ。紛れもなくな」



 互いの正体が割れたんで何かすっきりした「強者」と「化物」の私らは暫く笑ってた。全く異世界ってのは良い、可愛い奴にも会えるし化物にも出会える。向こうとは大違いだ。



「ははは、とりあえずカイトが起きしだい酒場にでも行って飲むか」

「そうしましょう。前金で懐は潤うでしょうし使っても問題ないかと」






 さて、今日も今日とて飲み明かしますかねぇ。

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