16.スネークヘッドと底砂

 ブルームーンギャラクシースネークヘッドは、わたしが飼育した生体の中でおそらく最も多くの環境変化に晒された個体である。


 底砂の変更が3回。


 レイアウトの変更も3回。


 水槽そのものの引っ越しが1回。


 飼育環境が変わった回数は実に7回ということになるわけで、この数字は初めて飼った生体であるウーパールーパーのときよりも多い。


 どうしてそうなったのかと言えば、理由はやはり「ブルームーンギャラクシーは美しいから」の一言に尽きる。愛嬌がウリのウーパールーパーと違って、スネークヘッドは体色や模様もアピールポイントだ。特徴が最大限に映える水景にしたくて、とにかく試行錯誤を繰り返したのがこの時期だった。


 中でも重要なのが底砂選びである。ウーパールーパーのときにも語ったことではあるのだが、今回はまた事情が違う。


 というのも、スネークヘッドの発色は底砂の色で大きく変わってくるのである。


 大きく変わるとは言っても、もちろん赤い魚が砂を変えた途端青くなったりするわけではない。しかし、たとえば白っぽい砂を敷いたときは色が飛びがちな一方で、黒っぽい砂を敷いたときは模様がハッキリ現れる……といったことは熱帯魚の世界では珍しくないのだ。スネークヘッドも例に漏れずというわけだ。


 わたしの場合、最初に敷いていたのはシンセーから発売されている「ブラックホール」という砂(※注1)だった。商品名のとおり真っ黒で、丸い形状をした小粒の砂利だったと記憶している。近所のアクアショップの店頭で見かけ、艶やかな色合いに惚れて購入したのだった。


 ところがこのブラックホール、いざ水に入れてみると、思ったほどツヤツヤしていなかった。


 いや、まあ、わたしが悪い。そもそも「濡れた状態で空気中で見る」のと「水に沈めて見る」のとでは見え方が違って当たり前で、どんな砂であっても実際に水底に敷いてみなければ本当の姿はわからない。


 ブラックホール自体の底砂としての性能に疑いはない。形状の面ではまったく普通の砂利だし、色だってちゃんと黒い。ただわたしが当初持っていたイメージとは違った、というだけのことに過ぎない。あと、たぶん飼ってたのがブルームーンギャラクシーじゃなくてアーモンドやインディアンあたりだったら、そのままブラックホールを使い続けていた可能性は高いと思う。


 とにかくイメージとはちょっと違ったので、次に導入したのはスドーの「リアルブラック」だった。これは天然石を使った砂である。実は黒一色というわけではなく、敷いて水を入れてみると白と黒が混じっているように見えたりするのだが、キラキラ感があって概ねわたしの想像どおりの見た目にはなった。


 ……ところで。


 スネークヘッドの仲間には遊泳を好む種類もいれば、底でじっとしていることを好む種類もいる。後者は砂を掘り返す習性を持っていたりして、わたしの部屋にやってきたブルームーンギャラクシーはまさしくそういうヤツだった。


 リアルブラックは比重が軽いのか、スネークヘッドが動くたびに舞い上がってしまっていた。


 レイアウト水槽の化粧やコリドラス用の底砂として使うぶんには支障なくとも、中型スネークヘッドとなるとパワーがありすぎるということかもしれない。どうであれ舞い上がるということは当然、若干はフィルターに吸い込まれて物理濾過用のマットに引っかかるわけだ。


 上部フィルターのマットを交換しながら、わたしはある日「これはよくないな」と考えた。


 なぜなら、そのときのわたしはオールガラス水槽の購入を検討していたからだ。


 案の定と言うべきか他のスネークヘッドも飼ってみたくなって、どうしても水槽がもう一つ必要になったのである。これまで使ってきた2本の水槽はどちらもフレームあり水槽だったので、見栄えのよいオールガラス水槽も一つくらいは持っておきたいと思っていた。そのオールガラス水槽をブルームーンギャラクシーの新居として立ち上げる計画だった。


 60cmオールガラス水槽をセットアップする場合、濾過装置はまず間違いなく外部フィルターになる。外部フィルターのメンテナンスは上部式ほど簡単ではない。底砂が目詰まりの原因になるなら、別の砂を使うべきではないだろうか……。


 というわけで、最終的にわたしは大磯砂に回帰した。


 どうも黒すぎる底砂だと体色まで黒に寄ってしまい、ブルームーンギャラクシー特有の綺麗な青が出ないような気がしていた(※注2)こともあって、結局は大磯が無難だという結論に落ち着いたのだ。


 ……でも、もし今ブルームーンギャラクシーをもう一度飼うとしたら、ガラス砂を試してみたくもある。青系のガラス砂を敷けば、ひょっとしたらもっと鮮やかな青に発色してくれるかもしれないからだ。


 懲りない男だと思われるかもしれない。しかし、ブルームーンギャラクシースネークヘッドとは、ついついそんな期待をしてしまうほどに美しい魚なのである。



     ◇ ◇ ◇



 ※注1:アクアリウム界隈で「ブラックホール」といったら、キョーリンの販売している活性炭濾材のほうが有名かもしれない。わたしもよくお世話になっている。


 ※注2:あくまでも筆者の体感。大磯でもそこまで劇的に変わったかと言われると首を傾げたくなるところではあったので、もともと黒っぽい個体だったのかもしれない。拙作『アクア・デイズ』の主人公・琴音が「スネークヘッドの発色は個体の素質によるところが大きい」と述べているのもこのへんの経験に由来している。

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