僕が直撃を受けている!?
「蘭様の登場です!!」
ちょび髭の男の声と共に、スポットライトが当たり、千宮院蘭の姿が光によって照らし出される。
「……お」
バ、バニー?
違う!
白ウサギだ!!
白タイツに、白いバニーガールの衣装。
純白で、純血で、純粋さが表現されている!!
それに、なんという事だろうか!!
胸が。
胸の在る辺りの中央に、千宮院蘭の瞳と同じハートマークがあって、胸の谷間が強調されている!
これは反則だよ!
反則技だよ!!
「おおっと! 男の子の海綿体に変化が見られたあああああっ!! どうやら身体が反応してしまったようです!!」
ぎゃああああああ!!
やっぱり、僕の身体のちょっとした変化さえ見逃さないと、何かで監視されている!!
僕は慌てて、股間の辺りに両手を当てて隠そうとする。
無駄だろうけど、隠しておかないと。
「これで私の勝利は確定ですね」
ハートマークの瞳を爛爛と輝かせながら、千宮院蘭は僕に向けて投げキッスをしてみせた。
おふっ?!
それも反則だって!!
ちょっとその気になっちゃうじゃない。
「心臓の動きにも変化が見られた!! 今のが止めになったかああああっ!!」
いやいや、なってないって。
なってないって、たぶん……。
千宮院蘭に当たっていたスポットライトが消えて、舞台が再び真っ暗になった。
あれ?
もしかして、これでモブ子が僕の心を動かせなかったら、千宮院蘭の勝利になるのかな?
さらば、モブ子。
どんな格好をしたところで、僕は反応なんてしないんだぞ。
なにせ僕はモブ子の大事なところをじっくりと見てしまった過去があるんだ。
男の娘と思って見つめていたんだけど、それ以上の衝撃があるはずもない。
モブ子にできるはずもない。
僕を動かす事なんて。
舞台にスポットライトが当たり、茶色のロングコートにその身を包んだモブ子が現れた。
モブ子は僕を見て、勝ち誇ったかのような余裕の笑みを投げかけてくる。
ん?
どうしてそんな自信満々なんだ、モブ子は。
モブ子は僕の目を見ながら、ロングコートのボタンを上から外していく。
ボタンが外れる度に、モブ子の素肌が見えてくる。
収まりきれない大きな胸もコートの間から、一部がこんにちはするように露出している。
あれ?
下着を身に付けてない?
ブラジャーどころか、肌着の片鱗もコートの間からは確認することができない。
あ……。
朝、家を出るときに見たあの光景が鮮明に蘇る。
裸のモブ子。
もしや、コートの下は素っ裸とか?!
モブ子!!
僕はそんな破廉恥な女の子に育てた覚えはないぞ!!
一番下までのボタンを外すと、左右の布地が合わさっていないちょっとした隙間から透き通るほど白いモブ子の素肌が見えてしまっていた。
当然、パンツをはいていないのか、モブ子の大事な部分さえその隙間から見えてしまっていて、僕はついついガン見してしまう。
モブ子よ!
素っ裸にコートだけとか、ただの露出狂みたいなものじゃないか!
しかも、大衆を前にして?!
それって反則だよ、反則!!
見たいワケでもあるし、いや、見たいワケでもなかったが、僕の視線は当然とあるところに釘付けになる。
モブ子から後でなんと言われようが見たいものは見たいんだ。
それに、僕に見せているモブ子が悪いんだ。
女の子の大事な部分を見せているモブ子が悪いんだ!
うん、悪いのはモブ子だ。
僕は被害者で、モブ子の露出癖に付き合わされて、見せつけられているだけなんだ!
ん?!
待て!!
モブ子は素っ裸じゃない!!
あそこを肌色に近い絆創膏で隠しているだと?!
なので、素っ裸じゃないとでもいうのか!?
なんて事をしているんだ、モブ子は!!
「おおっと!! 鼻血だああああっ!! 少年は鼻血を流しているぅぅぅっ!!」
ちょび髭の男の声が会場内にとどろいた。
は?
鼻血だと?
僕は慌てて自分の舌を出して、伸ばせるだけ伸ばして鼻の下辺りを舐めてみる。
生暖かい液体に舌先が触れて、ざらりとした鉄臭さが味覚を支配始めた。
「馬鹿な!! 僕が直撃を受けている!?」
この僕が鼻血を出すだなんて!!
いやいや、これはただの生理現象かもしれないじゃないか。
モブ子の裸体に近い姿を見て、興奮しすぎて鼻血が出たとは限らないじゃないか。
ははっ、僕がモブ子で興奮するはずないじゃないか。
「男の子の興奮度はMAXの模様です!! これは圧倒的な勝利の予感!! 千宮院蘭様の敗北が決まってしまったかああああああああああ!!」
会場内全体からため息が聞こえる。
どうやら千宮院蘭の敗北を知って、悲しんでいるようだ。
僕がモブ子に興奮するだなんて嘘だ!
あんな性格が悪くて、僕を尻に敷いているような女の子に僕が欲情するだなんて!!
「……悲しい事ですな」
ちょび髭の男の声が妙に哀愁漂うものへと変化した。
これで勝負が終わったという事なのかな?
舞台袖から例のちょび髭の男が出てくるなり、スポットライトを浴びているモブ子の背後に回り込むや否や、モブ子の腕を取って抱き寄せるなり、首筋にサバイバルナイフを突きつけた。
「……へ?」
「皆さん、お待ちかね! 千宮院家の抹殺をこれから行うのです!! この小型TNT爆弾によって!!」
ちょび髭の男は顔を子悪党みたいに歪ませて、そう叫んだ。
モブ子は何が起こっているのか分からない様子で当惑している。
即座に、その表情が当惑から怯えへと立ち替わる。
ついで言えば、抱き寄せられたからか、コートがめくれて双方の胸が露わになる。
乳首券は当然発行する気はなかったらしく、しっかりと大きめの四角い絆創膏で隠されていた。
ぬかりないな、モブ子。
ぽろりはなかったか。
その絆創膏を見て追撃を受けたようで、どばっと鼻血が出て来た。
もうあれだ。
僕の敗北だ。
完敗だ。
モブ子に完敗だ。
負けを認めないワケにはいかない。
僕はもうここまで興奮してしまっているのだから……。
「千宮院の糞虫ども!! 俺が身につけているものが何か分かるかぁ?」
ちょび髭はドスをきかせて言う。
「これはよぉ、半径一キロをクレーター状態にできる爆弾なんだよ! 一歩でも動くんじゃねえぞ! 動いたら、こいつを爆発させるからな!!」
会場全体がざわつき始める。
それも当然のことだった。
乙女同士の争いの勝負が決しようとしたときに、テロが始まったのだから当然とも言える。
「わしはな、二代前の千宮院に自殺に追い込まれた極道のもん地獄車貫太郎じゃ!! リンカーネイションドライブの力によって、千宮院に恨みを晴らすために復活したんじゃ、ボケどもが!」
ちょび髭の人の本名は知らないけど、どういう事なんだ?
「この司会の魂はもう少しで消滅するぜ! そうすれば、この身体は俺のもんだ! あ、俺のもんになっても、ここでお前と共に骨さえ残らないんだけどな!!!」
は?
ちょび髭の魂が消滅する?
入れ替わったんじゃなくて、乗っ取ったって事なの?
そんな事、できるっていうの?
「ああ、言っておくがよぉ、この会場は包囲されているからな! 俺達の仲間によってよぉ! だから、逃げられねえんだよ!」
確認するように舞台袖の方を見ると、千宮院蘭の姿が見えるも、狼狽えている様子は全然なかった。
こういう展開を予想していたのかな?
それとも、慣れているのかな?
「俺を殺したりしても無駄だ。俺の心臓の動きと連動しているからよ。心臓が止まったら、一瞬で爆発するようになっているんだよぉ!!」
その言葉を聞いて、僕は少なからず安堵した。
千宮院家のエージェントならば、モブ子を殺して『はい終わり』とかやりそうだったし。
それがないと分かれば、僕としては打つ手があるというものだ。
「……」
サーチの能力を駆使して、会場の外の様子を探ると、不思議な事にたくさんの人達が倒れているのが判明して、僕は小首を傾げた。
包囲していた連中とやらを倒した人がいたようだ。
誰なんだろう?
もしかして、千宮院家のエージェントと相打ちにでもなったのかな?
でも、それだとおかしいな。
何人か動いていてもいいようなものなのに、誰も動いていない。
相打ちで終了したとかありないだろうし、どういう事なので?
その疑問を解消すべく、サーチの範囲をさらに広めていくと、
「……?」
万次郎の存在を関知した。
どうやらビルの屋上にいるようだ。
なんで?
鈴麗競を見に来たと考えられるけど、ビルの屋上にいるのはあり得ない。
何かあったと考えるべきだろう。
僕はサーチから千里眼の能力に切り替えて、万次郎の姿を目視する。
こっぴどくやられたのか、全身ズタボロの姿でビルの屋上に倒れていた。
生きているのか、死んでいるのかさえ分からず、僕はついつい焦ってしまったが、冷静に観察してみると、唇がかすかに動いており、死んではいないようだった。
誰がやった?
万次郎から視線を外し、屋上を見回してみると、天狗っ鼻の老人と中性的な顔つきをした少女が並ぶようにして立っていた。
この鼻は……。
そうだ。
こいつは、僕が登校しようとしている時に家を訪ねてきた奴だ。
名前は確か……ラリアット・フランケンシュタイナー!!
なるほど、こいつが黒幕か。
モブ子を人質に取るだなんて命知らずな奴だ。
あ、もう死んでいるのかもしれないのか、あのちょび髭の身体を乗っ取った人は。
まずは、目の前のモブ子をどうにかして、フランケンシュタイナーを叩くしかないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます