『流石ですわ、お兄様』と褒めてくれる妹が欲しかったけど、何故か自称張飛の生まれ変わりの弟が養子で来て『さすがだ、兄じゃ!』と褒めてくれるようになった件について
佐久間零式改
第一章 僕と万次郎編
プロローグ
新しい弟が我が家に来る前日。
そんな日であるというのに、僕は駅前にある本屋に水着姿のお姉さんの写真がたくさん出ている雑誌を買いに出かけていた。
駅前にたどり着いて、そろそろ本屋が見えてくるなと思っていたら、人やバイクが道を通せんぼするように集まっていて、先に進めなくなった。
なんだろうと思って観察してみると、駅前広場に人がたくさんたむろしているだけではなく、広場や道には改造バイクが所狭しと置かれていて、足の踏み場もないくらいだった。
どうやらバリケードみたいなものをバイクなどで作って、道を塞いでいるようだ。
特攻服っていうのかな?
しかも、集まっていたのは、黄色だなんだと光沢のある素材で、背中に夜露死苦だとかよく分からない単語が書いてあるロングコートを着ている人達だ。
しかも、二十人以上も集結していて、木刀やらバットやらを持って何やら物々しい。
「……なんだろう?」
駅前広場がどうしてこんな状態になっているのか。
喧嘩でもあるのかな?
でも、僕的にはそんな事はどうでもいい。
切実な問題として、この人達が道を空けてくれないと、水着のお姉さんが出ている本が買えないではないか。
「何じゃ、お前らは!!」
張りのある男気のある声が特攻服の人達の先の方から聞けてきた。
「お前を待ってたんだよ! この前の借りを返しによぉ!! 汚名挽回だぁぁぁっ!!」
特攻服を着た誰かがそんな声を上げる。
汚名は挽回するものじゃなくて、返上するものじゃないかな?
僕はそんな事を思いながらも、早くこの人達がどかないかと切に願っていた。
「知らんわ、お前らなぞ!」
反論の声が上がるも、
「やっちまぇぇぇぇぇぇっ!!」
特攻服を着た誰かがバットを上に振り上げて、そう叫んだ。
「おおおおおおおおおおおおお!!」
応えるように、特攻服の人達が手にしていた武器を天へとかかげる。
「おお、じゃないよ、おおじゃ。僕は一刻も早くお姉さんの水着が見たいんだけど」
ここで喧嘩なんかが始まったら、本屋に行くのが遅くなってしまう。
始まる前に鎮圧してしまえば、すぐに本屋に行けるかな。
僕にはそんな事ができる力があるんだし。
うん、そうしよう。
僕はサイコキネシスを発動させて、特攻服の人達とその人達が乗っていたであろうバイクを横薙ぎで数秒の内に駅前広場から一掃した。
みんなどこかに飛んでいったけど、さほど怪我はしてないだろうし、バイクも壊れてはいないはずだ。
ちゃんと超能力をセーブして、怪我とかしないようにしたはずだから。
「……ん?」
暴走族らしき人達をあらかた片付けたからか、駅前広場が開けて、見通しがよくなった。
駅前はこうでないとね。
「……さて」
本屋に行こうかと前を見た僕は、豪傑のような体躯の、どう見ても三十代としか思えない顎髭を生やした学ランを着たおっさんと目があった。
「……兄じゃ、か?」
そのおっさんは僕の事を見て、目を大きく見開いた。
「いえ、僕に弟はいません」
明日、まだ会ったことも、顔を見たこともない新しい弟が来るけどね。
産まれるんじゃなくて、養子で弟が来るんだ。
僕的には妹が欲しかったのに。
「さすがだ、兄じゃ!」
そのおっさんは大粒の涙を流して、さも感動したとばかりに打ち震えだした。
「人違いです」
僕はそんなワケの分からないおっさんを横目に本屋へと早足で向かった。
そこには水着のお姉さんが出ている雑誌があるのだから……。
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