6 ……それは、私の中にある君のいた世界の風景。残像。
……それは、私の中にある君のいた世界の風景。残像。
菫は鶴と同じように名門私立秋桜女学園の黒色の制服を着ていた。
その制服は、鶴が菫に水をかけたせいで、びしょ濡れになってしまった。
「菫お嬢様」
桃子さんがそう言って、菫に白いタオルを差し出した。
菫はそのタオルを無言のまま受け取ると、水に濡れた顔を拭いて、それからやはり無言のまま、席を立って、そのまま一人で歩いて、食堂のドアを開けて、どこかに一人で行ってしまった。
「菫お嬢様はお洋服をお着替えに行ったのだと思います」
一人になった鶴を見て、にっこりと笑いながら桃子さんがそう言った。
それから少しして、鶴は冷静になり、さっきの自分の行動を反省して、席を立って、「あの、すみませんでした」と頭を下げて、桃子さんに誤った。
「とんでもございません。鶴様のお怒りは当然のことです」と桃子さんは言った。
そのとき、食堂のドアが開いて、そこから菫が顔だけを出して、「桃子」と言って、桃子さんを呼んだ。
「はい。お嬢様」
桃子さんは言う。
それから桃子さんは、おそらく菫の着替えを手伝うために、鶴に頭を下げてから、菫のいるドアのところまで移動した。
その間、菫はまったく鶴と視線を合わせなかった。
そして、ドアが閉まって、鶴は広い食堂の中に一人、取り残されることになった。
鶴が何気なく壁にかかっている高級そうな丸時計に目を向けると、時間は、まだ十二時三十分だった。
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