18
木ノ芽さんの奥さんは朝顔をしっかりと受け取った。
「ありがとう! まりもちゃん!」
泣きながら、朝顔をその腕の中に抱えて、木ノ芽さんの奥さんが言った。
まりもはにっこりと木ノ芽さんの奥さんに笑いかけて、それから後ろを振り返ろうとした。でも、そのまりもの行為は「さあ! 早くこっちに!」と言う声とともに警察のかたの一人に腕を掴まれて、阻止されてしまった。
「あ、でも、まだ小道さんが!」
まりもは言う。
「大丈夫! ほら」
警察のかたにそう言われて、その五十代くらいの警察のかたが見ている方向にまりもが視線を向けると、そこには紫陽花を木ノ芽さんの旦那さんに手渡している小道さんの姿が見えた。
木ノ芽さんの旦那さんは木ノ芽さんの奥さんと同じように「ありがとう」と小道さんに言っているようだった。
小道さんはまりもと同じようにそんな木ノ芽さんの旦那さんににっこりと笑いかけていた。
そんな小道さんを見て、よかった、とまりもは思った。
「早く! 救急車!」
でも、そんなまりもの安心も一瞬の出来事でしかなかった。
朝顔と紫陽花はすぐに土手の上の道路のところに待機していた救急車に運ばれていった。木ノ芽さん夫妻も、警察の方々も、そしてまりもと小道さんも、朝顔と紫陽花の無事を確認するために、土手の上まで移動しようとした。
でも、そのとき、偶然にも、あるいは、朝顔と紫陽花の命の代わりということなのかもしれないけれど、とても大きな川の流れが上流からやってきて、その流れが、まだ川岸のところで、警察のかたにタオルなどを借りて体を休めていたまりものところに襲いかかった。
その流れに飲み込まれたら、まりもはおそらく、今度こそ、そのまま暗い水の底にまで連れて行かれてしまって、その命は助からなかっただろう。
でも、まりもは助かった。
その川の異変にただ一人だけ気がついていた小道さんが、まりもの身代わりになってくれたからだった。
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